付き合い始めて次の日だった。朝陽さんからメールが入ったのは。
―当分会えないと思う―
 その言葉の裏を知らないまま、一か月が過ぎた。
会えない中でも、メールや電話は必ずと言ってもいいほど、毎日していた。
だが、電話の時間が短くなったり、メールの分が短かったり。
そんなことから私は怖くなっていった。
もし、このまま朝陽さんもいなくなってしまったらどうしようと。
朝陽さんに今、何が起きているのか。朝陽さんにどんな用事があるのか。
わからなかった。

「そんなことまでわからないって彼女失格なのかな?」
 私はにぎやかな教室の中で言う。
「そんなことないでしょ。ただ、仕事か勉強で忙しいとかじゃないの?」
 目の前にいる彼女たちが口を合わせて言う。
私は朝陽さんの話題から仲良くなった女子三人組と話していた。
気付けば、朝陽さんと出会ってから私の生活は大きく変わった。
友達もできるようになり、笑顔まで出るようになった。
全て朝陽さんのお陰だと思った。

 今日は補修でわからないところを聞いていたために遅くなってしまった。
昇降口に行くと、雨が降っていた。
傘をさすと、体にまで伝わってくる雨音が感覚を支配する。
校門を出る時だった。
思わず私は足を止めた。
「朝陽さん……」
 帽子をかぶっているが、すぐにわかった。
傘をさしていない朝陽さんはずぶ濡れだった。
私の頬にはしずくが伝う。
私はゆっくり、傘を朝陽さんの上にかざした。
その瞬間、朝陽さんは私を強く抱きしめた。
何も言わず、私たちは、朝陽さんの家へと、一つの傘で向かった。

 一か月前に来た時よりもきれいに片付いた朝陽さんの部屋はどこか寂しかった。
家に着くと同時に朝陽さんは、後ろから私を抱きしめる。
「朝陽さん」
 朝陽さんの腕に軽く手を当てる私は、朝陽さんが雨に濡れていた事を思い出した。
「朝陽さん、体拭かないと風邪ひいちゃいますよ」
 そういって私は朝陽さんから離れ、タオルを探した。
お風呂場にたたまれていたタオルを取り出し、朝陽さんの服を軽く拭いた。
「ごめん、着替えてくるね」
 朝陽さんの様子はどこか変だった。
でも、会えたことの嬉しさに私は違う様子に目を留めなかった。

 朝陽さんが着替えてくる間、私は、こないだと同じように小さなちゃぶ台の前に座った。
着替え終わった朝陽さんは帽子をかぶったままだった。
そのまま、私の隣に座る朝陽さん。
私はその近くにある温もりが好きだった。
「朝陽さんに会えて嬉しいです」
 すると、朝陽さんは突然私に抱き着いてくる。
「朝陽さんじゃなくて、朝陽がいい」
 少し離れると朝陽さんは、私の顔を見つめた。
「呼んでみて、俺も今日から梨沙って呼ぶから」
 朝陽さんの梨沙呼びはなんだか特別だった。
「朝陽……」
 急にキスをする朝陽に対して私は静かに目を閉じた。

 その後も、私たちは会えなかった時間を埋めるように優しい時間を過ごした。

 「じゃあね、ごめんね家まで送れなくて」
「大丈夫です。今日雨に濡れてたから風邪ひかないようにしてください」
「敬語じゃなくていいよ。朝陽って呼ぶんだし」
 私は頷いて、玄関の扉を閉めた。

 今日一日はとてもいい日だった。
そう思う帰り道、私は忘れ物に気付いて、引き返した。
それが全ての始まりだった……