今日はいい日だった。
薬を飲むためのコップを片手に窓に映った自分を見て改めて思う。
「俺、こんなに生き生きしてたっけ」
 思わずこぼれたその言葉は余計に自分を笑顔にさせる。
そして一日の出来事をノートにまとめる。
今日一日が鮮明に思い出されていく。

 消毒の匂いもすっかり慣れてしまった。
そんなことを考えていた時、マナーモードの携帯が震え、急いで携帯を見る。
「梨沙ちゃんだ……」
 それは連絡があの日からなかった彼女からのメールだった。
―朝陽さん。急にすみません。でも、朝陽さんの言葉を思い出して。今、ちょっと辛いかもしれません。お話できないですよね―
 メールを見た瞬間、使命感というのだろうか。そんな衝動にかられ、とっさに足を動かした。
「すみません。今日の予約キャンセルで」
 受付の女性の声も届かないくらい俺は足早に病院を出た。

 「確か、俺が通ってた高校の制服着てたよな」
 わずかな記憶を頼りに昔通った道を本当はしていけない全速力で走った。

 目の前に広がったのは今まで思い出したくなかった風景。
この高校を中退してから俺の人生は途方に暮れたんだ。
でも今はなんだかほつれて絡まった糸が切れたようにその光景を受け入れられた。
だが、全速力を出した代償も大きい。
しばらくは咳が止まらなかった。
彼女が来る約五分前。やっと落ち着いた気分だった。

 一つ目の目標を達成するには今日しかないと思った。
学校に行かず、毎日のようにゲームセンターで遊んでいた。
その腕は衰えてはいなかった。
彼女の笑顔を見るためなら、過去だって振り返って向き合ってやろう。
そう思えた。

 ふと我に返ると、一ページのノートが埋まっていた。
「意外と書けるもんだな」
 ノートを見返すと、彼女のことだらけだった。
「やばいな。このノート」
 ノートを見返し、あることに気付くと、顔の熱が分かるほどだった。
「もしかして俺……」
 彼女のことを見ていると確かに笑顔になれる。
だが、俺にはそんな余裕はない。
あと6ヶ月弱しかもたない俺が……
「でも、生きればいいんだよな」
 指にもう一度ペンを持つと、大きな文字で二つ目の目標を書いた。
―梨沙ちゃんと恋愛をする。そのために生きてやる―
 そう恋心に気付いたんだ。
彼女がいるだけで俺は笑顔になれる。前向きになれる。

 ペンを置いてその文字を見た瞬間、動きが止まった。
その次に来たのは咳。でもいつもより痛かった。
そのまま俺は机の前でうずくまった……