別れようの言葉に彼女があそこまで壊れてしまうとは思わなかった。
でも、何より、あの時自分が伸ばした手が届かなかったことが悔しかった。
彼は彼女の肩にすぐに手を伸ばせた。
けれど、ベッドに横たわる自分は、全く近づけなかった。
彼女の泣く姿を見るためにここまで嘘をついていたのか……
そんな後悔をするが、もう遅い。
きっと、彼女は今日より明日、明日よりもっと未来へ向かって進んでいくんだ。
自分が一日一日と戦うのとは違う。
せめて、彼女が最後に笑う姿が見たかった。

 日記も書けないまま、涙を流しながら、眠った。

 次の日、朝の窓から差し込む光で目覚めると、ゆっくり体を起こす。
かすんだ目をこすり、だんだん見えてきた光景は驚くものだった。
「おはよう」
 そこには昨日別れを告げたはずの彼女がいた。
「もう面会時間始まってたから、寝てたけど入っちゃった」
 今の状況を上手くのみこめない俺は、彼女を目で追う。
「梨沙。昨日の……」
「なんの事?」
 彼女は微笑みながら、俺を見た。
彼女の目から伝わってくる決意に心の中で頷いた。
「何でもない。今日、日曜日だったんだっけ」
 さりげない会話をした後、彼女に手を伸ばす。
「また、遊びに行こうな」
 彼女は知らぬフリをして、辛い気持ちに嘘をつきながら俺のそばにいてくれる事を決めた。
だから、俺も、嘘を貫き通して、彼女のために生きる。
嘘の恋愛でもいい。
嘘をついてる関係でもいい。
この人は俺にとって大切な人。
生きる希望なんだ。