君と6ヵ月の恋を

 朝陽の笑顔が目に浮かぶ。
「梨沙」
 そう呼んでくれる朝陽が好きで、あの楽しくて、居心地のいい時間をくれる人と一緒に居たいと思った。
そう考えていたのに、どんどん朝陽の笑顔がなくなっていく。
自分の頭の中に朝陽の真剣な顔が浮かんできて、私は我に返った。

 気が付くと、待合室で少し眠っていたようだった。
最近はなんだか眠れない日が続いていた。
顔を少しペチペチと叩くと、携帯が振動する。
―梨沙。今日、俺も病院行くから、もうすぐで着くと思う―
 啓紀からのメールだった。
なんで啓紀が病院に来るのだろう。
そんなに私の事を心配してくれているのだろうか。
そう思っていたが、啓紀が来ては朝陽との時間が短くなってしまう事に気付いて、急いで病室に向かった。

 「朝陽。来たよ」
 病室の扉を開けると、朝陽はただ黙って窓を見ている。
それは、さっきまで頭に浮かんでいた真剣な顔つきの朝陽そのものだった。
「何か用事あった?それとも何か買ってきてほしいものでもある?」
 朝陽の横に行くが、朝陽は目を合わせない。
違和感の覚える私だが、目の前の光景を見る事だけで精一杯だった。
「朝陽?」
「梨沙」
 やっと私の名前を呼んでくれた。
でもこちらを向かない朝陽は嫌な予感をさせるものだった。
「別れよう」
 何が起きたかわからなかった。
でも、涙は正直だった。
真っ先に出てきたのは涙で、その涙に気付いてようやく状況が追い付いてきた。
それと同時に私は崩れ落ちた。
涙が止まらず、声も零れた。

 必死に手でぬぐう涙の間から見えた手は、もう届かなかった。
「梨沙。帰ろう」
 私の肩に感じた温かい手は啓紀のものだった。
「立って。帰ろう」
 私は啓紀に言われるがまま、病室を出た。
朝陽の顔を見ることもなく……

 家に着くと、啓紀がココアをいれて、イスに座らせてくれた。
私の座るイスの前で啓紀はしゃがみ、手を握った。
啓紀の手の温もりに私は心の声がこぼれ落ちるように話した。
「別れようって……」
 啓紀は黙って頷いていた。
「私は、ずっと一緒に居たい。残された時間を一緒に過ごしたいのに。どうして?」
 啓紀は私の涙を手でぬぐうと、真剣なまなざしで言った。
「梨沙。俺、梨沙が好きだ。だから、泣いてる顔見たくない。泣かせたくない。俺だったら、梨沙を泣かせるような事はしないって言える。する気もない。だから俺に梨沙を……」
 啓紀の言葉は単純に嬉しかった。
でも私は、啓紀の言葉を受け取る事は出来ない。
そう思った時、私の中で一つの想いが固まった。
涙をぬぐって、深呼吸すると、私は啓紀を見つめた。
「啓紀、私やっぱり朝陽と向き合いたい。啓紀の言葉嬉しいけど、受け取れない」
 啓紀は私が言い終わると、笑った。
「やっぱり、梨沙は俺が思ってる以上に強いわ。でも、俺は待ってるから」
 啓紀の温かさに私は心から感謝できた。

 朝陽ともう一度、向き合おう。
そのためには……
私は一つの考えを思いついた。