朝陽の笑顔が目に浮かぶ。
「梨沙」
 そう呼んでくれる朝陽が好きで、あの楽しくて、居心地のいい時間をくれる人と一緒に居たいと思った。
そう考えていたのに、どんどん朝陽の笑顔がなくなっていく。
自分の頭の中に朝陽の真剣な顔が浮かんできて、私は我に返った。

 気が付くと、待合室で少し眠っていたようだった。
最近はなんだか眠れない日が続いていた。
顔を少しペチペチと叩くと、携帯が振動する。
―梨沙。今日、俺も病院行くから、もうすぐで着くと思う―
 啓紀からのメールだった。
なんで啓紀が病院に来るのだろう。
そんなに私の事を心配してくれているのだろうか。
そう思っていたが、啓紀が来ては朝陽との時間が短くなってしまう事に気付いて、急いで病室に向かった。

 「朝陽。来たよ」
 病室の扉を開けると、朝陽はただ黙って窓を見ている。
それは、さっきまで頭に浮かんでいた真剣な顔つきの朝陽そのものだった。
「何か用事あった?それとも何か買ってきてほしいものでもある?」
 朝陽の横に行くが、朝陽は目を合わせない。
違和感の覚える私だが、目の前の光景を見る事だけで精一杯だった。
「朝陽?」
「梨沙」
 やっと私の名前を呼んでくれた。
でもこちらを向かない朝陽は嫌な予感をさせるものだった。
「別れよう」
 何が起きたかわからなかった。
でも、涙は正直だった。
真っ先に出てきたのは涙で、その涙に気付いてようやく状況が追い付いてきた。
それと同時に私は崩れ落ちた。
涙が止まらず、声も零れた。

 必死に手でぬぐう涙の間から見えた手は、もう届かなかった。
「梨沙。帰ろう」
 私の肩に感じた温かい手は啓紀のものだった。
「立って。帰ろう」
 私は啓紀に言われるがまま、病室を出た。
朝陽の顔を見ることもなく……

 家に着くと、啓紀がココアをいれて、イスに座らせてくれた。
私の座るイスの前で啓紀はしゃがみ、手を握った。
啓紀の手の温もりに私は心の声がこぼれ落ちるように話した。
「別れようって……」
 啓紀は黙って頷いていた。
「私は、ずっと一緒に居たい。残された時間を一緒に過ごしたいのに。どうして?」
 啓紀は私の涙を手でぬぐうと、真剣なまなざしで言った。
「梨沙。俺、梨沙が好きだ。だから、泣いてる顔見たくない。泣かせたくない。俺だったら、梨沙を泣かせるような事はしないって言える。する気もない。だから俺に梨沙を……」
 啓紀の言葉は単純に嬉しかった。
でも私は、啓紀の言葉を受け取る事は出来ない。
そう思った時、私の中で一つの想いが固まった。
涙をぬぐって、深呼吸すると、私は啓紀を見つめた。
「啓紀、私やっぱり朝陽と向き合いたい。啓紀の言葉嬉しいけど、受け取れない」
 啓紀は私が言い終わると、笑った。
「やっぱり、梨沙は俺が思ってる以上に強いわ。でも、俺は待ってるから」
 啓紀の温かさに私は心から感謝できた。

 朝陽ともう一度、向き合おう。
そのためには……
私は一つの考えを思いついた。