君と6ヵ月の恋を

 あの日から一か月。
私たちはきっと嘘をつきながら生活をしていたんだと思う。
私は朝陽の前では笑い、裏では泣いていた。
きっと朝陽も私の前では笑っていても、裏では苦しんでいるはず。
帽子から髪の毛をのぞかせる事もなくなった。
病室から泣いて帰ると、啓紀が話を聞いてくれる。
そんな毎日だった。

 その日も朝陽の病室に足を運んだ。
病室に入る前、異常なほどの咳をして、苦しんでいる朝陽を見た。
余命を知っていることを隠さなきゃならない私は、その病室には入れなかった。

 少し待合室で待った後、病室に入ると、朝陽は何かを書いていた。
「朝陽。来たよ」
 すると、朝陽は書いていた何かを隠し、笑顔を向けた。
「来てくれてありがとう。でも毎日来るのは大変だからいいんだよ?」
「大丈夫。朝陽の顔見たいから」
「恥ずかしい事言うなよ」
 照れながら言う朝陽はいつも通りにしか見えない。
あと約2か月しかそばにいられないなんて実感がわかなかった。

 病室から帰ると、途中で千羽鶴が目に入った私は、帰り道に折り紙を買う。
家に着くと、まだ啓紀は帰ってきていなかった。
九月半ば。もう受験勉強や推薦入試などでみんなは忙しかった。
私はできる限り、朝陽と一緒に居たい。
その思いから、進学せず、独学で資格を取る道を選んだ。
もちろん、事情を知らない周りからは反対や進学をうながす話も多かった。
それでも私は朝陽と一緒に居る事を選んだ。
それなのに泣いてばかりの自分が情けなかった。

 リビングで鶴を何羽か折ると、玄関の扉が開く音がする。
「ただいま」
「お帰り」
 私は鶴を折りながら、迎えた。
「何作ってるの?」
 後ろで啓紀が私の手をのぞき込むように見る。
「千羽鶴作ってるの。病室寂しいから、色のあるものがあった方がいいかなって」
 啓紀の黙り込む反応に私は戸惑うが、沈黙の空気が嫌で話を続ける。
「千羽鶴だと、やっぱりお見舞いって感じになっちゃうかな?お守りとかの方が……」
 その瞬間、後ろから啓紀に抱きしめられて、手を止める。
「どうしたの?啓紀。なんか嫌な事でも……」
「俺にしとけよ」
 啓紀は静かに耳元で言った。
「俺は梨沙の事守ってやれる。いつでもそばにいてあげられる。だから……」
 後ろを向くと、啓紀が顔を近づけてくる。
確かに心臓の鼓動が速くなるのは感じている。
けど、違う。
朝陽の時のドキドキとは……
「ごめん」
 私はうつむいた。
「そっか。ご飯何食べる?」
 啓紀は何もなかったように冷蔵庫をあさった。
その様子を見て、胸が苦しかった。

 その日、私が部屋に戻ると、携帯が短い着信音を鳴らす。
見ると、朝陽からメールが入っていた。
―明日、来てほしい―
 今まで、ほとんど毎日行ってたのに、メールが来るのは違和感があった。
それでも、私は返信をして、その日を終わらせた。
次の日、何が起こるかも知らずに……