何もない。ただ息をするだけの毎日。
学校帰りの私の耳に入ってくるのは風の音。
私はその音を避けるかのようにいつもとは違う商店街の入り口の角を曲がる。
今日もダメだった。何も上手くいかない。いい事なんて起こりやしない。
私の高校生活はあと半年ちょっとで終わってしまう。
それなのに友達の一人もいなければ、進学先だって何一つ決まっていない。
明日もその次の日もきっと同じことの繰り返しだろう。
今日だって誰にも声を掛けられず終わったんだから。
だんだんと人の声がする商店街の真中へと入っていった頃。
肩に何かが当たって危うく転びそうになる。
「すみません」
後ろを見ると、金髪の青年がこちらを向いていた。
やっぱりついてない。私はその場から去ろうとした。
その時、急に腕を掴まれて私の心臓は大きく動いた。
恐る恐る振り返ると、今ほどぶつかった青年が私の手を掴んでいた。
どこかに連れていかれるのか。それとも一発殴られるのか。
髪色とその目つきから私は危ない人だと思った。その次の言葉を聞くまでは。
「俺と友達になってください」
「ただいま」
「お帰りー」
椅子に座った幼馴染の啓紀がこちらを向いて笑顔を見せる。
私には、家族がいない。一年前に両親が事故で他界した後、いったんは母方の祖父に預けられたが、今通う学校への遠さと祖父との関係の悪化で、昔からの付き合いである啓紀の家に住ませてもらっている。
「梨沙、どうしたの?なんかいつもと違う顔してるよ」
啓紀が私の顔を覗き込んでくる。啓紀は相変わらず人との距離感が近い。
「何でもない。それより今日もおばさんは仕事で遅いの?」
「そうみたい。今日も夕飯が冷蔵庫の中に入ってた。食べる?」
「今日はまだいいや」
この会話をするたびに私はなんとなく申し訳ない気持ちになる。
啓紀のお母さんも離婚してシングルマザーだというのに、私を自ら引き取るなんて。
「じゃあ、なんかゲームでもする?」
「いいよ。それより、啓紀は大学の勉強でしょ。頭いいんだから私なんかに気使ってないで勉強して」
「俺は、梨沙といる方が楽しいのに」
私はその言葉をスルーすると、二階に設けられた私の部屋へと足を運ぶ。
部屋に着くと、今日一日の出来事が頭を過る。
それと同時にマナーモードにしている私の携帯が振動する。
開くとそこには、見慣れない文字が映っている。
―朝陽さん―
そう。今日、あの金髪の青年に言われた言葉。
「俺と友達になってください」
それになぜか私は頷いてしまった。
怖いとかそんな感情からではなく、ただ単純に友達という言葉に惹かれたのだろう。
頷いた私を見ると、金髪の青年は笑った。
意外だった。
それが、まるで心からの笑顔のように見えた。
その後、私に恐る恐る連絡先を聞こうとする姿も見た目とは想像できなかった。
その青年は私とメールだけを交換すると、自分の名前を朝陽と名乗った。
携帯に映し出された朝陽さんのメールはまるでビジネスメールのように改まっていた。
―メール届きましたか?朝陽です。今日は急に変な事言ってごめんなさい。突然なんですが、明日空いてますか?空いてたら会いませんか?急にごめんなさい―
私はそのメールに怖さも何も覚えなかった。普通だったら、怖い事なのかもしれない。
でも、朝陽さんのあの時の笑顔を思い出すと、私は怖いとは思えなかった。
「梨沙。ご飯できたよ。食べよう」
啓紀が部屋の扉の向こう側で私に言う。
「分かった」
私は返信をして、携帯の電源を切った。
学校帰りの私の耳に入ってくるのは風の音。
私はその音を避けるかのようにいつもとは違う商店街の入り口の角を曲がる。
今日もダメだった。何も上手くいかない。いい事なんて起こりやしない。
私の高校生活はあと半年ちょっとで終わってしまう。
それなのに友達の一人もいなければ、進学先だって何一つ決まっていない。
明日もその次の日もきっと同じことの繰り返しだろう。
今日だって誰にも声を掛けられず終わったんだから。
だんだんと人の声がする商店街の真中へと入っていった頃。
肩に何かが当たって危うく転びそうになる。
「すみません」
後ろを見ると、金髪の青年がこちらを向いていた。
やっぱりついてない。私はその場から去ろうとした。
その時、急に腕を掴まれて私の心臓は大きく動いた。
恐る恐る振り返ると、今ほどぶつかった青年が私の手を掴んでいた。
どこかに連れていかれるのか。それとも一発殴られるのか。
髪色とその目つきから私は危ない人だと思った。その次の言葉を聞くまでは。
「俺と友達になってください」
「ただいま」
「お帰りー」
椅子に座った幼馴染の啓紀がこちらを向いて笑顔を見せる。
私には、家族がいない。一年前に両親が事故で他界した後、いったんは母方の祖父に預けられたが、今通う学校への遠さと祖父との関係の悪化で、昔からの付き合いである啓紀の家に住ませてもらっている。
「梨沙、どうしたの?なんかいつもと違う顔してるよ」
啓紀が私の顔を覗き込んでくる。啓紀は相変わらず人との距離感が近い。
「何でもない。それより今日もおばさんは仕事で遅いの?」
「そうみたい。今日も夕飯が冷蔵庫の中に入ってた。食べる?」
「今日はまだいいや」
この会話をするたびに私はなんとなく申し訳ない気持ちになる。
啓紀のお母さんも離婚してシングルマザーだというのに、私を自ら引き取るなんて。
「じゃあ、なんかゲームでもする?」
「いいよ。それより、啓紀は大学の勉強でしょ。頭いいんだから私なんかに気使ってないで勉強して」
「俺は、梨沙といる方が楽しいのに」
私はその言葉をスルーすると、二階に設けられた私の部屋へと足を運ぶ。
部屋に着くと、今日一日の出来事が頭を過る。
それと同時にマナーモードにしている私の携帯が振動する。
開くとそこには、見慣れない文字が映っている。
―朝陽さん―
そう。今日、あの金髪の青年に言われた言葉。
「俺と友達になってください」
それになぜか私は頷いてしまった。
怖いとかそんな感情からではなく、ただ単純に友達という言葉に惹かれたのだろう。
頷いた私を見ると、金髪の青年は笑った。
意外だった。
それが、まるで心からの笑顔のように見えた。
その後、私に恐る恐る連絡先を聞こうとする姿も見た目とは想像できなかった。
その青年は私とメールだけを交換すると、自分の名前を朝陽と名乗った。
携帯に映し出された朝陽さんのメールはまるでビジネスメールのように改まっていた。
―メール届きましたか?朝陽です。今日は急に変な事言ってごめんなさい。突然なんですが、明日空いてますか?空いてたら会いませんか?急にごめんなさい―
私はそのメールに怖さも何も覚えなかった。普通だったら、怖い事なのかもしれない。
でも、朝陽さんのあの時の笑顔を思い出すと、私は怖いとは思えなかった。
「梨沙。ご飯できたよ。食べよう」
啓紀が部屋の扉の向こう側で私に言う。
「分かった」
私は返信をして、携帯の電源を切った。