「万年筆は、ペリカンをお使いですか?」
「は、はい。 祖父から貰った物なので、随分古いんですけど……」
「へえ、お祖父さんから。 素敵ですね」
思いもよらなかった言葉だったけれど、嬉しかった。
「もし良ければ、ペリカンの、違う種類のインクはいかがでしょう」
女性店員は棚に腕を伸ばして、インク瓶をひとつ手に取った。
「違う種類……?」
聞き返すと、女性店員は頷いた。 それから、彼女は再び棚に手を伸ばしてインク瓶をもうひとつ取ると、万年筆インクには種類が3つあると話した。
「これまでお使いだったインクは、顔料インクといって、乾きも良くて長期保存にも向いているので、色褪せたりもしません。 こっちの染料インクは、水に溶けやすいので書いた文字が滲みやすくて褪せやすいですが、その分、万年筆の先にインクが詰まっても手入れが楽です」
女性店員は、読み聞かせるように丁寧に話す。 誰かと会話をするのは随分と久々で緊張と焦りがあったけれど、耳に入ってきやすい声だと思った。
「こっちは没食子インクといって、顔料インクと同じように長期保管する書類に向いています。 没食子インクは、時間と共にインクの色が変化するのが特徴です」
僕は驚いて、思わず聞き返す。
「色が、変わるんですか」
「はい。 でも、こまめに万年筆を手入れしないとペン先が詰まってしまうので、ちょっと扱いづらさがあるかもしれません」
女性店員は没食子インクの瓶をちょうど僕の目の前の高さにある棚の上に置いた。 そうして、彼女が説明してくれたインク瓶が横一列に並ぶ。