鈴木先生の言葉に、皮肉やからかいが込められているわけではない。
その言葉通りに、楽しげな会話を中断させて申し訳ない、と心底思っているだろうその『のほほん』とした物言いが、生徒達の笑いのツボを刺激した。
教室のそこここから、クスクスと、笑い声が上がる。
――うわーっ、恥ずかしいっ……。
優花は思わず、上気した顔を俯かせて、もともと小柄な体を更に縮こまらせた。
「はい、了解です」
優花とは違い動じる風もなく。
晃一郎は、その口元に笑みを刻んだままスッと席を立ち、教壇に佇む留学生、リュウの方へ歩み寄る。
「クラス委員長の、御堂晃一郎です。分からないことがあったら、気兼ねなく聞いてください」
リュウと対峙した晃一郎は、ニッコリと、満面の笑みを浮かべて委員長として過不足ない模範的な台詞を口にすると、ごく自然な動作で左手を差し出した。
Handshake.
アメリカ式に、握手を――と、晃一郎なりに気遣いを見せたらしい。が、リュウは、戸惑ったように、差し出された『左手』を見下ろした。
その理由を、晃一郎が左手を出した瞬間いち早く察知した優花は、どきどきと気をもんだ。
――晃ちゃん、左手! 左手が出てるよ!
日本人の左利き率は、およそ一割ほど。
左利きの矯正が日本ほどされていないアメリカでも、三割程度と言われる。
確率から言えば、リュウは右利きであると考えた方が順当だろう。
右利きの人間に左手を差し出して握手を求めても、普通は咄嗟に反応が出来ずに右手を差し出してしまい、握手は成立しない。
手を出す前に戸惑いを見せるリュウは、ある意味、観察眼が鋭いと言えるのかもしれない。