「それにしても、突然だったなぁ……」

「本当に、他人事じゃないですよねぇ」

 お茶をすすりながら、しきりに気の毒がる優花の祖父母に、晃一郎は少し困ったように口の端を上げた。

 亡くなった晃一郎の祖父は八十五歳で、今まで病気らしい病気もせずに昨日まで元気に農作業をしていて、苦しむこともなく眠るように息を引き取ったのだそうだ。

 だからと言って、身内を亡くした悲しみが軽くなるはずはないが。

 こんな風に人の死に接するとき、優花の胸の奥に穿たれた塞ぎきらない見えない傷跡に、ズクリと鋭い痛みが走る。

 三年前の中三の夏休みに、優花は、父と母を交通事故で同時に失くした。

 両親と優花。家族三人で父の運転する車で外食に出かけたその帰り、優花たちの車は大きな玉突き事故に巻き込まれたのだ。

 父と母はほとんど即死状態で、皮肉なことに外食をせがんだ優花だけが、奇跡的にかすり傷で生き残った――。

 昨日まで当たり前にあった存在が跡形もなく消えてしまう、残酷な現実。

 泣いても喚いても、埋めることの出来ない、心に空いた喪失感。

 それを、優花は嫌というほど身に染みて知っている。

 こういう時、言葉は何の慰めにもならない。

(せめて、私はいつも通りでいよう――)

 優花は心密かにそう決意した。

「ごちそうさまでした。さてと」

 優花はいつものように空になった食器を重ね、それを持ってキッチンへと足を向けた。

 生きている者は、食べなくてはいけない。それがどんな時でも。食べて、次への一歩を踏み出す英気を養うのだ。

 そう思えるようになるまでには、たくさんの時間がかかった。そして、そう思えるようになったのは、確かに、目の前にいる優しい幼なじみの存在は大きかった。

 優花が両親の死で自分を責め打ちひしがれ、壊れそうな心を抱えてどうする事も出来ずにいたとき、晃一郎から、特別な言葉は何もなかった。

 ただ、変わらずに、いつも近くにいてくれた。いつものように冗談を言って、からかって。その変わらなさが、たまらなく嬉しかった。だから、あの悲しみを乗り越えられたのだと、そう思う。

 あの時にもらった、温もりと優しさ。それを、少しでも返したい。

 シンクの洗い桶に食器を浸けながら、優花は小さく頷くと、いつもの調子で晃一郎に言葉をかけた。

「晃ちゃん、食後はお茶がいい? それともコーヒー? 優花特製カフェ・オレも作っちゃうよ?」 

 そんな優花の気持ちを見透かしたように。

「じゃ、カフェ・オレ・プリーズ」

 晃一郎は、そう言って、ふっと目元を和らげた。