僕は彼女の意見に同感だった。だから彼女の言う通り颯爽と駅から会場へ向けて二人で歩く事にした。楠野さんの方を改めて見ると、彼女は青色の紫陽花柄の浴衣を着ていた。そして、いつものショートカットの前髪にはヘアピンを付けて清潔感を頑張って出しているようだった。
 そんないつもよりおとなしめな印象を与える彼女の見た目は僕にとっては少しドキドキとしてしまう。けれど、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「……今日の花火大会、楽しみだね」
「うん。そうだね」
 今は精一杯花火を楽しもう。そう決めたのだから。彼女に元気を付けてほしい。悩みを打ち明けてほしい。だから、気分を一時的に盛り上げるだけでもいいから楠野さんを花火大会に誘ったんだ。これから夜空に咲く美しい火の花を見て彼女が元気になってほしい。
 僕と楠野さんは今、皆と同じ方角に向かって歩いている。周りを見渡していると、家族で来ている人や友達数人でやってきた人。それにカップルもいた。ああいう感じで仲良く来ているのを羨ましいな……とか考えていたけれど、よく考えたら僕は今クラスメイトの女子……それも学校一の有名人と来ているのだ。という事は。
「どうしたの、こっち見てきて?」
「ああ、いや」
 これは誰かに見られたら、デートだと言われてしまうかもしれない。そうなると頭の中が熱くなってくる。気持ちが高騰してきそうで一瞬目まいがきそうになるが、なんとか持ちこたえて歩いている。