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 うちの中学は、卒業式と入学式で、どちらも桜が咲く。

 三月上旬、卒業シーズンに咲くのは河津桜。ソメイヨシノよりも紅色が濃い早咲きの桜だ。

 卒業式にも桜が咲いていてほしい、という創立者の思いから植えられたらしいけれど、植わっている場所が東門なので、卒業式にわざわざそっちを通る人は少ない。

 正門には四月にソメイヨシノが咲くけれど、最近は入学式の頃には散ってしまっていることも多くて、どちらも在校生には密かに「残念桜」と呼ばれている。

 その残念桜の片割れが満開になる頃、和佳は推薦で、私と秀は一般受験で、西柊に合格を決めた。

「ほんとよく受かったなあ、おまえ」

 おめでたいことのはずなのに、担任の教師にもなぜか呆れられて、私も苦笑いだ。

 卒業式は粛々と進んだ。高校も三人で一緒という安心感のせいか、私はあまりしんみりしなかった。もちろん、中学でお別れの友だちはたくさんいる。

 教室に戻った後、担任の先生の涙を見たときは、正直目の下がぐるぐるした。それでも、私が涙をこぼすことはなかった。そのときはまだ、私のパズルのピースは何も変わっていないと思っていたから。

 ああ、そうだ。私のパズルのピースは変わってなかった。でも、他の人まで変わっていないとは限らないってことを、どうして忘れていたんだろう。


 卒業式が終わった後、さっきまでそばにいたはずの秀と和佳の姿が忽然と消えた。同じクラスの友人に見かけなかったかどうか訊くと、

「あー、なんか桜の方で見たかも。写真撮るんじゃない?」

 正門に植わっているのはソメイヨシノだ。ということは、東門の方か。なんで写真を撮るのに、私に声かけてくれないんだろ。

 そんな不満を抱えながら、私は東門へ向かった。

 今日限りの校庭、今日限りの校舎(まあ、また来ようと思えば来れるけど)、この制服だって、もう着ない。たくさんの「最後」を横目に、それでも私は振り向くことなく走った。

 気がつくと、なぜか全速力だった。思えばそのときから、胸騒ぎはしていたのかもしれない。

 遠目にも、秀の高身長は目立つ。東門が近づいてくると、綺麗に咲いた河津桜が見えてきて、その下に三年になっても制服姿が似合わない秀がいた。

 もう少し近づくと、そばに和佳がいるのが見えた。

 二人は向かい合っている。少し、木陰に隠れるようにしている。

 声をかけようとして、ためらったのは、本能だったとしか言いようがない。

 駆けてきた私は減速して、そのままゆっくりと、東門の近くの水道の裏に身を潜めた。桜の木までは少し距離がある。この場所から、二人の声は聞こえない。でも、何を話しているのか、さすがに私にもわかるような気がした。

 水道の陰から左目だけ出すようにして覗き見た。

 秀は顔が少し赤かった。和佳はなんとも言えない表情をしていた。

 秀が何かを必死にしゃべっている。和佳が困ったような、迷うような、煮え切らない顔になる。秀はさらに何か強く言ったみたいだった。

 気がつくと私の心臓は早鐘のように打っている。和佳が首を横に振ることを期待している自分がいる。

 何を話しているのかわからないのに、手に取るようにわかる気がするのは、私がまだ、二人のピースと繋がっているからだろうか。

 しかし次の瞬間、和佳が小さく、けれど確かにうなずいて――そして秀が、はにかんだような笑みになるのを、私は確かに見た。

その瞬間、秀と和佳のパズルのピースが変わってしまったのを、私ははっきりとわかった。桜の花びらが目の前に落ちてくる。なんとなくそれを掌で受け止めて、ふっと自覚する。



 私、秀のことが好きだ。