初めて三人でしゃべった日のことを、よく覚えている。たぶん、ことあるごとに思い出しているせいだ。

 もともとは三人でつるんでいたわけじゃなかった。私は秀と接点があって、後に和佳とも接点を持ったけれど、和佳と秀には接点がなかった。

 気が合うようにも見えなかったし、結びつけようとも思わなかった。秀は私以外にも男子の友だちがたくさんいたし、和佳は私とだってそんなに仲良くしてくれていたわけではなかったと思う。

 でも、あるときたまたま、ほぼ同じ時期に、二人が異口同音に同じ映画を観たいと言い出したので、二度観にいくのが面倒になった私は約束をダブルブッキングさせたのだ。今になってみれば、ずいぶんと乱暴なことをしたものだと思う。

 映画が始まる前、二人はほとんど話さなかった。私を間に挟んで映画を観る間、なんともいたたまれない空気が流れて、私は内容がちっとも頭に入ってこなかった。

 そもそもちょっと難しい映画だった。
 中学生が好むような、わかりやすいアクションや、ラブや、ファンタジーじゃない。

 ミステリのベストセラーが原作の小難しい映画で、キャストは知っている人間ばかりだったけれど、話はいまいちちんぷんかんぷん、結局なんでその人が罪を犯したのか、どういうトリックだったのか、私は最後まで理解できなかった。

「はー、なんか難しくてよくわかんなかったや」

 映画館を出て、私が呑気にそんな感想をつぶやくと、途端に左右の二人がものすごい剣幕で私を睨んだ。

 秀いわく、あの映像化不可能と言われた傑作ミステリの大胆トリックが云々。
 和佳いわく、人間の二面性と愛情の二面性が複雑に絡み合った人間ドラマが云々。

 気がつくと、二人は私なんかそっちのけで、映画の感想を生き生きと語り合っていた。秀が小難しい本を好んで読んでいるのは知っていたけれどそこまでミステリに傾倒していたとは知らなかったし、和佳がこんなにも楽しげに誰かと話すのを初めて見た。

 でも、そんな二人を見ているのはちょっと嬉しくて、私は数歩後ろを歩きながら、二人が話すのにただ耳を傾けていたのだ。

 あれはそう、いつぞやの秋の、よく晴れた日曜日のことだった。