でも、それはやりすぎじゃね?っていうような無茶な提案をする奴らには、やんわりと他の提案をして、上手く場を収めることを、知らずにやってしまっているようなこともあった。

誰がそれを提案したか、分からないくらいに自然に。

気付けば流れは緩やかにその方向を変えている。

そんなことが一度や二度だけじゃなくて。

他の奴らは気づかないけど、俺はそれに気づいてからは、もっともっと彼女の事が気になるようになっていた。

文化祭の準備の時、暗幕が足りなくって、担当が責め立てられたことがあった。


「どうするんだよ!」

「他のクラスも暗幕使うからって、在庫なかったはずだろ?」


そんな声が上がる中、結城はフラッと教室から消えた。

どこに行ったのかと思っていたら、演劇部の部長を連れて戻ってきて、余っている暗幕を貸してくれるという算段をつけてきた。

その時の交渉をしたのは結城だったのに、演劇部の部長は次の劇の時に手伝いをしてくれる男子を貸してくれるならとクラス委員長に提案をして、両者が円満に話がついた。

皆は演劇部の部長に感謝していたけれど、俺は彼の後ろにいた結城にこそその感謝を向けるべきだと思った。

彼女は決して自分の手柄を自慢したりしない。

かといって、それを不満に感じることもない様子で、「よかったよね」と、ほんわりと笑っていた。

俺だったら、もっと自分のおかげだって声にあげていたはずで。

そんな結城の態度に憤りを感じたこともあった。


「結城って、意外とリーダー気質かも」

「へ?」


何を突然言うの?

そんな目で俺を見て、首を傾げる彼女。


「私には絶対持ちえない気質だよ、それ」


カラカラと笑う結城は、本心で言っているみたいだった。

確かに先頭を歩くタイプのリーダーじゃないかもしれないけれど、一番後ろにいて、取りこぼしていくみんなのミスとかトラブルとかを、そうとは気づかせないように収集していくそんなタイプのリーダー。

縁の下の力持ちってやつ。

俺には絶対になれないから、羨ましいと思うし、それに気づかない周りの人間や結城自身にも、少しイライラしたりもした。

一目惚れっていう位だから、勿論顔が好みで。

でも、知っていくにつれて、自分にないものを持つ結城の本質にも惹かれていくのにそう時間はかからなかった。