足首に巻かれていた包帯は、湿布と網状のカバーだけになった。夏休み始まって早々、駅の階段を踏み外して右足首を痛めたのだ。しばらくは上手く歩けないからと、花火大会へ行こうという友達のお誘いは泣く泣く断った。

「みんな、どうしているかなー」

 これだけ降っていると、河川敷の屋台もほとんどが閉まっているだろう。行き先を失った同級生達はみんなでカラオケにでも行っているかもしれない。そして、ふと幼なじみの顔が浮かぶ。

 侑希、残念だっただろうな。

 好きな子を無事に誘えたかどうかは聞いていないけれど、もし誘えていたとしたら、今日は花火デートだったはずだ。がっくりと肩を落とす侑希の様子が頭に浮かぶ。代わりにどこか別の場所へと誘えていればいいのだけれど。

「連絡してみようかな……」

 スマホを弄って『どうしている?』とメッセージを送る。数分もしないうちに、『雫は?』と返事が届いた。

『家にいるよ』
『──足は?』
『だいぶいいから、もう平気』

 既読は付いたけれど、しばらく待っても返事はない。
 スマホを机の端に置くと、夏休みの宿題に取り掛かることにした。まずは一番時間がかかる、読書感想文の読書からだ。

 一時間ほどで四分の一くらいまで読み終え、途中で夕食を挟んでさらに読み進める。

 どれくらい経っただろう。
 二センチくらいの文庫本の半分くらいまで読み進んだとき、トントントンと扉をノックする音が聞こえた。扉を開けたのは、お母さんだ。

「しずちゃん、お隣の侑くんが下に来ているわよ」
「え? 侑くん?」

 時計を見ると、時刻は八時半だ。こんな時間にどうしたのだろうと訝しく思いながらも、下に降りると、玄関には黒いTシャツにジーンズ姿とラフな格好をした侑希が立っていた。

「雫。一緒に花火やろうぜ」

 侑希は持っていた手持ち用花火セットを少し持ち上げて見せると、にかっと笑う。
 
「へ? 雨は?」
「五時ぐらいには止んでいたよ」
「花火大会は?」
「行ってないよ」
「誘わなかったの?」
「…………。事情があって、誘っても一緒に行くのは無理そうだったから」

 侑希はバツが悪そうにそれだけ言うと、ちょいちょいと私を手招きする。外に出てこいと誘っているのだろう。