二人の距離が元々のそれ以上に広がった気がした。年明けごろからは結構いい感じなのではと自惚れていたのに、勘違いだったらしい。

 それに、先日だって痛いところを突かれた。
 温厚な性格でいつもニコニコしている雫が、未だに煮え切らない態度をとる俺に対し『男らしくない』と言ったのだ。
 すぐに顔を青くして謝罪されたが、自分自身でも全くその通りだと思っていた。いつまでズルズルと引っ張るつもりなのだと。

 それに、最近気になることがもう一つ。

雫が前にも増して可愛くなった。
前から可愛いのだけど、なんて言えばいいのだろう、少し服装が変わって、ほんの少し大人っぽくなったような気がする。先日も、普段はつけない色つきのリップを付けていて、ピンク色の唇が妙に色っぽく見えてドキリとした。
 もう高校二年生なのだから、学校に行かないときはお洒落や化粧をしている女子も多いとは思う。塾でも、化粧をしてくる女子はいる。けれど、雫に限ってはそういうことに全く興味がなさそうに見えたので妙な焦燥感にかられた。

 もしかして、好きな人でもいるのかな。

 そんな不安が湧いてくる。それは誰なのだろう。やっぱり、普段から仲がよさそうにしている久保田彰人だろうか。

「やっぱり、ちゃんと言うしかねーか」

 白黒つけるためにはそれしかない。
そうは思うけれど、一体いつどこでどういうタイミングで言えばいいのか。
 考えたくはないが、断られたらどうすれば? 「なーんてな、冗談だよ!」と言えば元通りの関係になれるだろうか? いや、そんなちゃらちゃらしたふざけた冗談を言う男だと雫に思われるなんて耐えられない。

 では、どうすればいい?

 考えても答えは見つからず、同じようなことの堂々巡り。

「当たって砕けてみるか……」

 暗闇の天井に白く浮き上がる蛍光灯を見つめながら、独りごちた。

 
 その一週間後のこと。
 俺はその日も雫と一緒に図書館に行った。並んで一緒に勉強していると、チラチラと視線を感じる。わからないところでもあるのかとノートから顔を上げて雫の方を向けば、パッと目を逸らされてしまった。

 帰り道、図書館の出口にある掲示板の前で、雫が足を止めた。

「どうしたの?」
「先週も貼ってあったけど、もうすぐ花火大会だなあと思って」

 雫は掲示板に貼られた一枚のポスターを指さした。