──恋心ってね、自分ではどうにもならないものなんだよ。

 そんな台詞はどこかで聞いたことがある気がするけれど、どこで聞いたのだったっけ?
 恋愛小説、ドラマ、それとも少女漫画だったかな? 思い出せそうなのに、なかなか思い出せない。
 けれど、この十七年弱の人生において今ほどその台詞が身に染みたことは、かつて存在しなかったことだけは断言できる。

 ふと窓の外に目を向ければ、しとしとと雨が降り注いでいた。細かい霧状の粒子はガラス窓に音もなくぶつかり、暫くすると縦の線を描いて滴り落ちてゆく。
 ここ数日は曇りや雨が続いているし、もうそろそろ梅雨入りが近いのかもしれない。濡れたガラスと空中の水滴で、いつもの景色が歪んで見える。

まるで私の歪んだ気持ちを表しているみたい、なんて思ってしまったからもう末期。
っていうことは、この雨は私の涙ってことかな?

 あ、まずい。そんなことを考えたら、本当に泣いちゃいそう。

 私はぐっと唇を引き結ぶと、レースカーテンを引こうと立ち上がった。

 窓際に立つと否が応でも目に入ってしまうのは隣のお家、倉沢邸。少しだけ見える二階の窓の奥に電気が灯っているのがわかり、「あっ、侑くんいるのかな……」なんて考えた自分に驚愕する。
これじゃあまるで、ストーカーじゃないか!

 ジャッと大きな音を立ててカーテンを引いたのは、カーテンの幕引きでこの陰鬱な気持ちをシャットダウンしたかったから。
ゲームみたいに全部リセットで最初からやり直しができればいいのにね。そうもいかないのが人生なのだから、なかなか難しい。


 あの体育祭の日から、二週間ほどが過ぎた。
 あの日、放課後の教室で久保田くんに告白されたのを断った私は、まだどこか現実感がないまま、ぼんやりと夕日が沈むのを眺めていた。

「雫、ごめん! 待たせた」
 
 ジャージ姿の侑希が息をきらせて教室に駆け込んできたとき、何故だかその見慣れた姿がものすごく格好よく見えた。侑希はいつも格好いいのだけど、そうじゃなくて……。うん、上手く説明できない。

「雫? どうした?」

 侑希が怪訝な表情で顔を覗き混んでくる。そんな仕草はこれまでに何十回、ひょっとしたら何百回って見てきたはずなのに、心臓が止まるんじゃないのかって思うほど胸が跳ねた。