「ただいま」
「あら、おかえりなさい、あなた」

「なんだか、疲れてるみたい?」
美佐子は、尋ねた。
「いや、疲れてないよ」と言って健人は、書斎に入った。

まるで、夢のような1日だった。何もしないことほど、辛いことは、ない。
「これが、明日も明後日も続くのか?」と自問自答した。

有名大学を出て、一部上場企業の商社に、入ったのが、22歳。それから、23年。平坦な道とは、言えなかった。それでも、課長に昇進した時は、嬉しかった。

二人の子供は、高校生と大学生。責任が健人の頭に、のしかかる。

そして、35年ローンで建てた家。
今、辞めたら収入ダウンは、避けられない。そうなたっら、家族が、バラバラになる。

「今、考えても、しょうがないか?」

「あなた、お食事どうぞ?」
「ああ、今いく」

目覚めは、悪かった。しかし、背広を着て、鞄を持ち、家を出た。