良一が空を見上げた。
「岡浦小も、いつか閉校になるのかな?」
「十年後には複式学級だけになるだろうって、父が言ってた。閉校になるかどうかは、行政との兼ね合い」
「家でそんな話、するの?」
「しないけど、家にいたら、父が教育関係者と電話とかで話してるのが聞こえてくる」
「昔からそんなふう?」

 あたしはうなずいた。真節小の閉校だって、地域の人が知るより早くから知っていた。知っているということを黙っておく術も、いつの間にか身に付けていた。
 そっか、と良一が言う。

「だから結羽は冷静なんだな。昔から冷静だった。いろいろ知ってたせいなんだ。閉校式のときもそうだったけど、今日も泣いてなかったろ?」
「泣いてないよ」
「おれは泣いた。でも、この年齢だから、まだマシだったな。小六とか中学のころだったら、受け入れられなかった。真節小って、今の自分の人格を形作ってくれた場所だから、ほんとに恩を感じてて、大切で」

 取り壊しの時期が今になったのは、当然ながら、良一の成長を待っていたからじゃない。予算だ。校舎の築年数が一定の基準を超えたら、取り壊しのために県か国から下りる補助金の額が大きくなるらしい。
 良一が知らなくていい事情だ。本当は、あたしだって知る必要がない。

 両親は気付いているんだろうか。あたしの耳が聞こえすぎること。あたしの目が見えすぎること。あたしの頭が覚えすぎること。あたしの勘が察しすぎること。全部のセンサーを働かせていたら、あたしがまともに生活できないこと。

 あたしは幼いころから、自分で自分を守る方法を習得してきたんだと思う。
 いい子だねと誉めてもらえる受け答えを身に付けて、心に踏み入られないよう鎧をまとう。土地に染まらない言葉を学んで、感性の出力を上げすぎないよう注意する。

 人と出会ったら、その瞬間からカウントダウンを始める。その相手と、いつ別れるのか。最初から別れのときを予知していれば、必要以上の悲しみに翻弄されない。