「だったら、名前を教えてくれねぇか?
 お前が、自分の口から名前を教えてくれたなら。
 どんなに変な名前だって、ちゃんと大切に呼んでやるから」

「う~~」

 ……このヒトに名前なんて教えていいのかしら……?

 制服で、ドコの学校だかと学年がもう、判ってるし。

 ついでに身元だってすぐ判るって言ってたけど……本当かな?

 口を閉じたわたしに、神無崎さんはにやっと笑った。

「お、黙ったな。
 別にいいぜ、お前の名前は、タマ、決定。
 タ~~マ、タマタマタマこれから、よろしく~~
 タマタマタマ……マタ?
 うぁ、なんかちょっとヒワイ~~
 ペロちゃんの方がマシかな?
 ぺ~~ロ、ペロペロ~
 うぉ!? こっちもなんとなく……」

「判った! 判りましたっ!
 タマもペロもどっちも、イヤです!
 わたしの名前は『理紗《りさ》』!
 西園寺《さいおんじ》 理紗《りさ》って言います!!」

「な……西園寺、理紗だと!?」

 今の今まで、わたしをからかって遊んでいた神無崎さんが、名前を聞いた途端、真剣な顔をして、素早く立ち上がった。

 そして、座ってた時は、気がつかなかったけど、背、高い~~なんて思う間もなかった。

 ずっと握ってたわたしの手首をぱ、と放して代わりに両肩をつかむ。

「てめーか!?
 てめーが、宗樹《そうじゅ》の言ってた、西園寺の女なのか!?」

 ……へ?

 急な展開に頭が全くついて行けなくて、わたし、神無崎さんに肩をつかまれ、揺さぶられるままになっていた。

「宗樹、ってウチの執事のお孫さんの……藤原《ふじわら》 宗樹《そうじゅ》……さんのコト、でいいのかな?
 なんで、神無崎さんが知ってるの……?」

 しかも……またまた怒ってる?

 今度は、さっきみたいについ、大きな声を出した、って感じではなく。

 猛烈に、本気で怒っているような感じするんですけど……!

 神無崎さんは呆然としているわたしに、くってかかるように怒鳴った。

「てめーのせいで!
 宗樹がどれだけ迷~~惑かけられてるんだと思っているんだ!」

「……は?」

 宗樹がめーわくって、わたし、何かしたっけ?

 それに、そもそも宗樹とあまり会ったこと何て無い以上。

 迷惑をかけるほど接点なんてないはずで……?

 何にも思いつかないわたしに、相当腹を立てたらしい。

 神無崎さんがイラだって、てめぇ! なんて、声を荒げた時だった。

 わたしの後ろから、静かな声が聞こえた。

「……なんだ裕也《ゆうや》。
 朝っぱらから、どーして女相手にケンカ売ってんの?
 元気なヤツだな。
 殴り合いなら、昨日散々ヤッたじゃん。
 まだ足りねぇなんて、そーとーなケダモノだよ、あんた」

「宗樹」

「宗樹!?」

 神無崎さんの声に振りかえれば、そこに彼が、いた。