とはいえ、まったく誰も思いつかず、見覚えもなく。

 首を傾げれば、彼は突然げらげらげら~~と笑いだし、次の瞬間、痛ててて! と顔を盛大に歪ませた。

「あ……あの、大丈夫……ですか?」

「平気だって! 大丈夫!
 それよりさぁ、おかしくって! めずらしくって!
 このオレに、何の利害も求めず、好意だけ寄せてくるヤツ!」

「……はぁ」

「なぁ、なぁ、なんでオレに声をかける気になったか、教えてくれよ!
 今日は、酷ぇ面《つら》だし。
 このオレがイケメンだから一目ぼれした、ってわけじゃ、もちろん、ねぇんだろ?」

 こ、怖い。

 何がツボだったんだろう?

 しゃべれば顔が痛いだろうに、そんなの全く関係ないみたい。

 急に上がった彼のテンションがとても怖くて、言葉も出ず。

 かくかくとうなづくと、神無崎さんは、また弾けたように笑った。

「すげー! お前、最高だぜ!
 オレのオトモダチになってくんねぇ?
 ……いやいや、いっそのこと彼女にならねぇ?
 今、丁度女切らしてる所、だったんだ」

「けっ……結構です」

 本当に、怖かった。

 この、神無崎さん、っていう人!

 一番最初に見かけた時は、人ごみにまぎれて儚く消えてしまいそうな雰囲気があったのに。

 今、わたしの手を握ったまま次々としゃべる彼は、狙った獲物を逃がさない獣《けだもの》みたいだ。

「ええ~~彼女になれよ。
 オレの彼女の席って、結構レアだぜ、レア!
 毎回、だいたい定員一名しか募集しねぇし、しかも、あっという間に埋まる」

『だいたい』定員一名って!

 ソレが二名以上になったら普通、浮気っていう状態じゃあ……?

 イヤ~~

 わたしは思い切り、ぶんぶんと首を横に振ったけれど、神無崎さんは全く気にしてくれなかった。

「おお、照れてるのか? 可愛いな」

「違いますって! なんで初対面で、名前も知らないのに、お友達だの、彼女だのって言うんです!」

「名前~~? そんなもんが問題なのか?
 オレはお前が気に入った。だから、それで良いじゃないか。
 お前の着てる制服は『君去津』の『一年』だろう?
 これだけ判れば、お前の居所なんて簡単に探せるし。
 名前が、山田花子だろーが、鈴木なんとかだろーが全くかまわねぇ。
 本名が気に食わなけりゃ、オレはお前を好き勝手に呼ぶ」

 そーだな、お前。

 地味っぽく、みつあみなんてしてるくせになんだか、派手でさぁ。

 ぱっと見、高そうなネコに見えるから、タマとかペルシャネコのペロちゃんとか呼ぼうかな、なんて言い出した彼に叫んでた。

「ん、な無茶苦茶な!」