「終わった~~!」

 気分は、もうしっかり意地よね。

 君去津高校に入学した大事な最初の一日目。

 井上さんと同じくらい、良いヒトいないかな、って。

 軽音部以外の、今日活動している部活を回れるだけ回って見学していたら、時間はもう、夕方遅くなっていた。

 一番星が、きらりと光るのを眺めながら、一人。

 朝来た道を戻って海に出たとたん、わたし思わず叫んでた。

 ん~~大声出すって気持ちいい~~

 今日は、朝起きてから今まで、いろんなことがあり過ぎるぐらいだったけど。

 初めての場所に来て、慣れないことを沢山やった不安も、ストレスもぜ~~んぶ、声に乗せて、どっか行きそう。

 そう言えば、朝会った蔵人さんも歌えない、とか言いつつ、大声を出していたもんなぁ。

 ……と、そこまで考えて、はた、と気づいた。

 わたし、何か一つ忘れているような気がした。

 金髪碧眼の蔵人さんの顔を思い浮かべて、さらに思いだしかけたんだけど……

 朝、わたしが蔵人さんに出会う、少し前。なんか大変なコトがあったような気がしたんだけど。

 なんだっけ?

 首をかしげながら桜並木を下り、うーんと唸りながら視線を上にあげると。

 今まで忘れていた恐ろしい現実が、目の前にあった。

「……終わった」

 わたし、思わず口の中で呟いて、二、三歩後さずる。

 だって、そこにはいかにも幽霊の出そうな君去津駅がどーーんと立ちふさがっていたんだもんっ!

 そう!

 忘れてたって『コレ』!

 君去津駅がめちゃくちゃ怖いってことだったんだ。

 ちょっと、そこのアナタ!

 たかが駅ぐらいでナニ怖がってるの? なんて言わないでよねっ!

 朝、散々宗樹に脅かされた揚句。

 古~~い、木造作りの駅舎は、沈みかけた太陽に照らされて、ほの暗く闇が濃い分もっと怖い。

 外灯になっている蛍光灯も、電気がついているのに調子悪く、青白い光がちかちかと明滅を繰り返し……

 今は帰宅時間のはずなのに、まばらにしか駅から出て来ないヒトたちをゾンビみたいに見せていた。

 無~~理~~!

 わたし、このお化け屋敷みたいな駅、一人で入るの無理!

 怖すぎる~~

 そう言えば、君去津高の皆が利用しているバス停が学校を挟んで真反対にあるって宗樹が言ってた。

 今は下校時間もだいぶ過ぎてるから、そう賑わってないと思うけれど、ここを利用するよりは、大分マシかもしれない。

 そう思って、桜並木の方を振り返ったんだけど……ここも真っ暗。

 ついさっきまでは、まだ少し明るい気がしたんだけど、今はもうすっかり陽が落ちて、暗くなり……ここはまともな街灯も少ない。

 ぽっかり浮かんだ月明かりを頼りに、誰かとわいわい夜桜見物するなら良くても、このままじゃ一人で肝試し状態だ。

 そして、海の方には、更に街灯が少なかったような気が……

 ひ~~ん~~

 どうしよう!?

 前にも後ろにも進めずに、泣きそうな気分で立ちつくした時だった。

 桜並木の方から、まるで世界が終わった、みたいな大きなため息が聞こえた。