わたし、自分の耳で聞いたことを、本人に伝えたくて、あの歌が、どんなに素敵だったか、一生懸命説明してた。

 すると、今まで堅い表情をしていた彼が、ふわり、と笑う。

「……そ、か。良かった。
 とても、とても大切な歌だった、から。
 その感想、嬉し」

 おお~~

 このヒト、金髪碧眼で、顔、整ってるからかな?

 はにかんだように笑う表情が、まるで天使みたいだ。 

「元の歌ってどんな歌、なんですか?
 差し支えなければ、聞いてもいいですか?」

 心の底からほっとしたような顔をしている彼を見て、曲のコトが知りたくなっちゃった。

 声をかけたら、彼は一瞬迷って「うん」とうなづいた。

「君去津高のヤツらだけで結成されたCards soldier(カーズ ソルジャー)ってインディーズバンドの、曲。
 その中にいた『スペード・エース』って言う、ヤツ。
 曲、僕のために書いてくれた、のに。
 歌えないのはとても、残念」

「ふうん、そうですか。
 お友達が作曲してくれた曲なら、大事にしたいですよね。
 でも、もし、ご自分で歌えないなら、その作った本人に、時々歌って貰えばいいじゃないですか」

 わたし、何の事情も知らずに、そうさらっと言っちゃったけど……

 それからずーーっと後悔することになった。

 だって、金髪の彼が笑ったのを見ちゃったから。

 さっき見せた、はにかんだ天使の笑顔じゃない。

「スペード・エースはもう、いないんだ」って。

 今にも泣き出しそうな顔の、微笑。

 ……そんな表情をするヒトに。

 わたしは産まれて初めて出会ったんだ。