いや、確かに今は朝だし!

 ヒトが居ないとは言え、ごく普通の私鉄電車の駅だし!

 怖がる要素は、全くないって判ってたって、嫌だった。

 だって、幽霊よ! 幽霊!

 先行きが、とっても心配~~

 けれども。
 不安で、困ってうつむいたわたしのすぐ上で、宗樹がぷぷぷなんて、笑いをこらえて吹きだした。

 そしての声に慌てて見上げたら……彼は、笑いだす寸前だったんだ。

「そ……宗樹……?」

「……だから、ヒトの話をそう簡単に信じんじゃねーよ、莫~~迦」

「へ?」

「君去津の由来と、ここが昔海だったことは本当。
 身を投げた女の遺体がどっかにひっかかったらしく、結局、見つからなかったこともな。
 だけど、そんな陸が海だったとき、ここの地名がついたときから駅が存在してたと思うか?」

 存在しない駅の出入り口に、遺体なんて引っ掛かるか?

 なんてしみじみ言われて、ようやく間違いに気がついた。

「……あ」

 宗樹に、からかわれた……!

 固まるわたしに、彼は笑う。

「幽霊なんて、いるわきゃねぇって判りゃ、いくらお嬢さんでも、一人で歩いていけるだろう?」

 さぁ、行った、行った~~ なんて。

 手をひらひらさせて、追い出しにかかる宗樹を、わたしは頬をぷうと膨らませてにらんだ。

「……でも、昔。ここら辺で女の人が亡くなったのは、本当なんでしょう?」

「何百年も前に死んだ奴なんざ、さすがに恨み辛みの賞味期限切れじゃねぇ?
 死にたてほやほやと違って、この世にそんなに未練あるとも思えねぇし」

「賞味期限切れって、幽霊を焼きたてほやほやのパンみたいに言わないでよ~~」

 宗樹に迷惑をかけているのは、わかっていたけれど。

 ここで一人になりたくなくて、うるうる見つめていたら、彼はまた、世界の終わりみたいなため息をついた。

「ここまでは、人目が無いから良いけど。
 お嬢さんは、俺と一緒に登校してるのバレたら、ひどい目に合うぜ?」

「……それは、どういうこと?」

 ケンカが好きらしい神無崎さんと同じように、宗樹の顔にも傷がある。

 つまり、彼もケンカをするヒトってことだよね?

「もしかして、宗樹たちは『不良』とかって言われてるヒト?」

 見上げるわたしの視線に、宗樹は目を伏せた。

「さあな。
 でも、そうだとしたら、どうする?」

「信じられない。
 西園寺執事、藤原の……爺のお孫さんなのに……」

 宗樹の第一印象は冷たいヒト、だ。

 意地悪も言うし、からかうこともあるけれど。

 人ごみからわたしを庇ってくれたあたりは、本当はとても頼りになる、優しいヒト。

 あ……でも。

 本気で怒った時は、まるで猛獣みたいにすごかったっけ。

 出会ったばかりの『宗樹』がどんなヒトなのか。

 良く判らなくて黙ったわたしを、どう思ったんだろう。

 宗樹は、一瞬揺れて見えた視線を冷たく変えて、言葉を吐き捨てた。