なんか、さ。

 普段わたしをほったらかしにしたまま、仕事に出かけてばかりの両親の意見を丸々聞くのが嫌になっちゃって、ねぇ。

 幼等部から中等部まで通っていた、名門私立学校の高等部に、エスカレーター式に上がってゆくのやめちゃった。

 勝手に公立高校を受験し、受かったこの春。

 今日から通うことになったのが、爺の宗一郎的には、嫌だったみたい。

「宗一郎は、わたしが普通の公立高校に通うのが、そんなに反対なの?」

 寝巻のままベッドの端に腰かけ、上目遣いで尋ねれば、宗一郎の横首振りがますますひどくなった。

「滅相もない!
 私《わたくし》はお嬢さまの御祖父さまの代から、この西園寺家にお仕え申し上げておりますが、たかが使用人。
 執事でございます。
 お嬢さまの決定したことに関して、なにも口出しできる立場ではございません……けれども」

 宗一郎は、胸ポケットから白いハンカチを取り出して、目頭に当て……おいおいと泣きだした。

「爺は、心配なのでございますよ~~
 今まで、幼等部から中等部までを名門資産家の方が多く通ってらっしゃる私立星条学園で大事にお守り申し上げていたのに。
 急に高校は公立を目指すからと、お受験なさってしまって!」

 爺はそんなことを言いながら、ハンカチの隙間からわたしを見た。

「お嬢さまは優秀でごさいますから、どんな学校でも、合格するに決まっているではありませんか。
 公立高校では西園寺家のご寄付も断られ、お嬢さまを特別扱いさせていただけません。
 これからのお嬢さまのご不便、ご苦労を考えると、爺は今から胃に穴が開きそうでございます」

 いや、だから。

 その『特別扱い』がイヤ、ってのが学校を変えてみようと思った理由の大半なんだけど……多分、爺は判ってない。

わたしのウチ、西園寺家って商売の神様でもついているらしい。

 先祖代々お仕事は大成功、裕福すぎるほどで。有り余ったお金をあちこちにばらまいてる。

 もちろんお父さんもお母さんも『見返りはいりません』って寄付をしてた。

 けれど、貰う方は、何やら大金を貰ったまま、何もしないって言うのは居心地悪いみたい。

 中学までの学校では、至れり尽くせりのお姫さまあつかいだったんだ。

 校長以下、教師の皆さまは何時だってにこにこ笑顔で、わたし『だけ』どんなわがままも聞いてくれたけど……

 それやるたびに『お友達』だと思ってた子が笑顔のまま、フェードアウトしてゆくのに気がついちゃった。