「くっそ~~ 自己嫌悪~~
 本っ当に、俺、ナニやってるんだろ」

 JRから君去津を通る私鉄に乗り換えると、そこはさっきと打って代わって空いていた。

 ラッシュのさなか、さすがに座席には座れないけど。

 扉のすぐ隣にある手すりは、わたし達二人だけでゆっくり占領できるのに。

 宗樹は隅の手すりに近寄りもせず、今閉まったばかりの扉に手をついて、がっくりとうなだれてた。

 さっき、わたしのおしりを触って宗樹に手首を掴まれたあの『フトドキモノ』の正体を知ってから。

『世界の終わり』を明日に控えました~~みたいなため息を何度もついていた。

「よもや、この俺が小学生(ガキ)相手に全力で怒った、なんて。
 大人げねぇ~~」

 そうなんだ。

 わたしのおしりを触ってた手を人ごみから引っ張り出してみれば、そこには、ど~~見ても小学生。

 しかも、低学年ぐらいの男の子が、いた。

 どうやら、ラッシュの電車に乗ったのは良いけど、今日は、特別混んでたみたい。

 いつも捕まるはずの手すりに届かず、人ごみに流され。最初に流れついた先が、わたしの真後ろだった。

 前を塞ぐ、わたしのおしりが邪魔だなぁ、と押してみたり。

 人ごみに流されそうになって、思わずつかんだスカートを引っ張った結果が、痴漢騒ぎ(コレ)だったってことだった。

「ごっ……ごめんなさいっ!」

 も~~イヤ。

 わたしってば自意識過剰すぎ……

 おしりを触られた時とはまた別の恥ずかしさで、なんだかじたばたしたい気分だ。

 助けてくれた宗樹に、本当に申し訳なくて!

 頭を下げたら、宗樹はひらひらと手を振った。

「あんたは別に『痴漢だ』とは騒がなかったろう?
 俺が勝手に勘違いしただけだ。
 つかんだ手もだいぶ小さいって、すぐ判ったはずなのに。
 そんなことにも気がつかなかった」

「……でも」

 騒がなかったのは、ただ声が出なかっただけで……!

 そう、言おうとしたわたしに、宗樹は手のひらを向けた。

「ストーーップ。もういいぜ。
 思い返すだけでも、俺が恥ずかしい。
 ……とりあえず、本物の痴漢に出会わなくて良かった。
 それで、良いじゃねぇか」

「う……うん」

 わたしが曖昧にうなづくと、宗樹は自分の頭をガシガシと掻く。

「……本っ当に、ナニやってるんだろうな、俺。
 今から、西園寺に関わる気なんざ、これっぽっちもなかったはずなのに。
 お嬢さをんガッコの駅まで連れてゆく気になって。
 痴漢に会ったかも、と思ったらこんなにすげー腹立つなんて」