「こんなに多くの人同士が近づいてるのに、ぎゅうぎゅう押されなければ、そんなに気にならないや。
誰の視線も感じないからかな?」
思わず呟いた言葉に、宗樹が視線を落としてわたしを見た。
「ふん、まーなー。これでうるさかったら、やってられねーよ。
みんな、狭いし、暑ぃのから現実逃避したいのは同じだろうよ。
スマホいじったり、音楽聞いたり、それぞれが目的地に着くまで自分の世界に浸ってるから、下手な路地より他人の目、ねぇんじゃねぇの?」
「……うん」
「本当に、電車も人ごみも初めて、なんだな。
今までいつでも、どこでも運転手付きのでっけー車を乗り回してただろうに。
なんでまた、わざわざこんな苦労をする気になったんだか」
なんだ?
天下の西園寺家も、ここのところの不況で没落か? って、目を細める宗樹の声、すっごく意地悪!
これに対抗しようと「ちがうもん!」って、小さく声をあげた時だった。
わたしにもう一つ。
とんでもない災難が襲いかかって来たんだ。
……いや、本当はこの連結器近くに来て、落ち着いた途端に気がついたんだけど。
最初は何かの間違いかな? と思った。
回り中、ヒトが一杯でぎゅうぎゅう詰めだったし。
人ごみラッシュを出来るだけ避けるように、宗樹に抱きかかえられてても、どっかにぶつかるのは、仕方ないよね?
だから、おしりのあたりを撫でられた感じ。
誰かのカバンかどっかにぶつかっただけだ、と思ったんだ。
けれども、繰り返されるのは撫でられ感だけじゃなくっ……!
今! とうとうスカートが引っ張られた!
これは、確かにカバンやモノではなく『手』だよね!?
宗樹がわたしを他のヒトや荷物から庇ってくれててぶつかった、ってことは無いかな? とも思った。
……だけども。
宗樹の手、一本は、わたしの肩。も一つは、やっぱり肩に近い背中辺りに……ある!?
ちょっと、待ってよ!
じゃあ、わたしのスカートに触ったり、おしりを撫でてるの、ナニ?
……こ、これはもしかすると世に言う『痴漢』とかって言うシロモノじゃぁ……
怖いよう。
考えたくない可能性に震える。
そ……そうじゅ……
声をかけようとして、言葉を呑みこんだ。
今、誰かがわたしのスカートを触ってる、なんて!
言えるワケ無いじゃない!
は……恥ずかしい……っ!
「……なんだ、震えてるぜ? ヒトに酔ったのか?」
ただ、ただ怖くて、恥ずかしくて。
何も言いだせずに困っていたら、宗樹が気づいて声をかけてくれた。
なんとなく、外しぎみだった視線をまっすぐこちらに向け、首をかしげる。
「そ……じゅ」
見上げたわたしの表情《かお》を見て宗樹の形の良い眉が、ぎゅっと寄った。
「こんな暑い所で青ざめてんじゃねぇよ……っと、もしかして、涙? 泣いてる?
足でも、踏まれてるのか?」
「ちが……誰か……触って……」
「……なんだと」
わたし、ほとんど喋れなかったのに、宗樹は全部を理解して、目つきを変える。
……もしかして、怒ってくれてるの?
『神無崎さんに比べて、だいぶ優しげなイケメン』の第一印象が総崩れになるほどの強い力で、目をギラッと光らせた。
宗樹は、力づくで、人ごみの中をぐるっと回った。
わたしと体勢を入れ替え、今いる場所から出来るだけ遠ざけたんだ。
……なのに。
わたしのお尻を触ってたヒトは、急に移動しても、まだわたしのスカートを握って離さない。
宗樹は、そのヒトの手首をぐぃ、とつかむと鋭く怒鳴った。
「てめ! ヒトのモノに触ってんじゃねぇぜ!」
まるで猛獣のうなり声みたいなその声に、今まで無関心だった周りの人がぎょっとした顔でわたしたちを見る。
そして。
宗樹に手首をつかまれ、わたしの前に引きづり出されたヒトが……やがて静かに泣きだした。
宗樹が相当怖かった……みたい。
………
誰の視線も感じないからかな?」
思わず呟いた言葉に、宗樹が視線を落としてわたしを見た。
「ふん、まーなー。これでうるさかったら、やってられねーよ。
みんな、狭いし、暑ぃのから現実逃避したいのは同じだろうよ。
スマホいじったり、音楽聞いたり、それぞれが目的地に着くまで自分の世界に浸ってるから、下手な路地より他人の目、ねぇんじゃねぇの?」
「……うん」
「本当に、電車も人ごみも初めて、なんだな。
今までいつでも、どこでも運転手付きのでっけー車を乗り回してただろうに。
なんでまた、わざわざこんな苦労をする気になったんだか」
なんだ?
天下の西園寺家も、ここのところの不況で没落か? って、目を細める宗樹の声、すっごく意地悪!
これに対抗しようと「ちがうもん!」って、小さく声をあげた時だった。
わたしにもう一つ。
とんでもない災難が襲いかかって来たんだ。
……いや、本当はこの連結器近くに来て、落ち着いた途端に気がついたんだけど。
最初は何かの間違いかな? と思った。
回り中、ヒトが一杯でぎゅうぎゅう詰めだったし。
人ごみラッシュを出来るだけ避けるように、宗樹に抱きかかえられてても、どっかにぶつかるのは、仕方ないよね?
だから、おしりのあたりを撫でられた感じ。
誰かのカバンかどっかにぶつかっただけだ、と思ったんだ。
けれども、繰り返されるのは撫でられ感だけじゃなくっ……!
今! とうとうスカートが引っ張られた!
これは、確かにカバンやモノではなく『手』だよね!?
宗樹がわたしを他のヒトや荷物から庇ってくれててぶつかった、ってことは無いかな? とも思った。
……だけども。
宗樹の手、一本は、わたしの肩。も一つは、やっぱり肩に近い背中辺りに……ある!?
ちょっと、待ってよ!
じゃあ、わたしのスカートに触ったり、おしりを撫でてるの、ナニ?
……こ、これはもしかすると世に言う『痴漢』とかって言うシロモノじゃぁ……
怖いよう。
考えたくない可能性に震える。
そ……そうじゅ……
声をかけようとして、言葉を呑みこんだ。
今、誰かがわたしのスカートを触ってる、なんて!
言えるワケ無いじゃない!
は……恥ずかしい……っ!
「……なんだ、震えてるぜ? ヒトに酔ったのか?」
ただ、ただ怖くて、恥ずかしくて。
何も言いだせずに困っていたら、宗樹が気づいて声をかけてくれた。
なんとなく、外しぎみだった視線をまっすぐこちらに向け、首をかしげる。
「そ……じゅ」
見上げたわたしの表情《かお》を見て宗樹の形の良い眉が、ぎゅっと寄った。
「こんな暑い所で青ざめてんじゃねぇよ……っと、もしかして、涙? 泣いてる?
足でも、踏まれてるのか?」
「ちが……誰か……触って……」
「……なんだと」
わたし、ほとんど喋れなかったのに、宗樹は全部を理解して、目つきを変える。
……もしかして、怒ってくれてるの?
『神無崎さんに比べて、だいぶ優しげなイケメン』の第一印象が総崩れになるほどの強い力で、目をギラッと光らせた。
宗樹は、力づくで、人ごみの中をぐるっと回った。
わたしと体勢を入れ替え、今いる場所から出来るだけ遠ざけたんだ。
……なのに。
わたしのお尻を触ってたヒトは、急に移動しても、まだわたしのスカートを握って離さない。
宗樹は、そのヒトの手首をぐぃ、とつかむと鋭く怒鳴った。
「てめ! ヒトのモノに触ってんじゃねぇぜ!」
まるで猛獣のうなり声みたいなその声に、今まで無関心だった周りの人がぎょっとした顔でわたしたちを見る。
そして。
宗樹に手首をつかまれ、わたしの前に引きづり出されたヒトが……やがて静かに泣きだした。
宗樹が相当怖かった……みたい。
………