そして、今までよりもさらに混んでる改札を突っ切り、あっという間に君去津に行く電車のプラットホームまで、たどり着いてしまった。

 おお、なにこれ、速い~~

 なんて。

 あっさり着いたホームから、機嫌良く後ろを振り返ってみてぞっとする。

 ヒトヒトヒトヒトヒト……

 大体黒い頭で、地味な制服やスーツを着たヒトビトが、どわっと電車を待ってる。

 一応きちんと並んでるみたいだけど、ドコが最後尾なのか、もはや判らず。

 ざっと辺りを見回してみればプラットホームの数も多くて!

 わたし一人だったら、ここまで来れなかったかもしれない。

 ひきっ、とひきつったわたしをちらっと見て、宗樹は、ふん、と鼻で息をついた。

「朝の通勤ラッシュをなめんなよ。大変なのは、これからだ」

「……え?」

 と、聞き返す間もなく、電車がホームに滑り込んで来て、それは起こった。

 扉が開いた途端、大量の降りるヒト!

 それが容赦なく、わたしの方に、やって来る。

 きゃーー流される~~ と思った直後。

 本当に人ごみに流される寸前に、宗樹がわたしを引っ張ってくれた。

 でも、次にやって来たのは、もっと多い乗り込む人々の群れ!

 急いで乗り込む人々にわたし、突き飛ばされそうになっちやった!

 けれども宗樹は、わたしを抱きしめるように庇って、そのまま乗り込んでくれた。

 そして、身動きが取れない格好で、電車はゆっくり動きだす。

 うう~~

 狭い~~ 息苦しい~~

 さっ……酸素~~

 空気を求めて、じたばたするわたしを見て、宗樹は深々とため息をついた。

 すっと、自分の方にわたしを引き寄せて、流れるように電車の人ごみをかきわけると、奥の方に連れてゆく。

 ちょっと……!

 扉から離れたら、余計に息苦しいんじゃ……!

 ぎゅっと、目をつむった時だった。

 ふわり。

 意外に涼しい風を感じて、目を見開いた。

「……あれ?」

 わたし、電車の車両と車両の間の、連結器の近くにいる。

 しかも、宗樹の胸に、耳をつけた状態で隣の車両へ移動するための扉のほうを見てた。

 風、連結器の扉の隙間から……来る?

 電車が、がたん、と揺れるたび。

 カーブで大きく曲がるたび。

 少し、空気の流れが出来る……のかな?

「どうだ……? 少しは、マシ?」

「……う、うん。だいぶ、いい感じ」

 宗樹の胸に、耳をつけているから、小さな声が大きく響く。

 そして、わたしの答えに彼が黙れば、心臓の音が聞こえた。

 宗樹の音だ。

 とくとくとくとく……

 電車に慣れている宗樹でも、このヒトゴミは辛いのかな?

 ちょっと早く打つ心臓の音が、何だか気持ち良かった。

 ……とくとくとくとく

「……すごいね。電車は案外静かなんだね」

 世界が終わった、みたいな大きなため息じゃない。

 宗樹の普通の息遣いが、聞こえるほどに。