「裕也はいろんな意味で、猛獣だ。
 ……怖いぞ。
 もし、ここら一帯で関わり合いになっちゃいけねぇランキング、なんてもんがあれば、よゆーで一位だ」

「か……神無崎さんって、宗樹のオトモダチなんじゃないの?
 そんな風に、悪く言わなくても……」

「友達? アイツのコトは、昔から良く知ってるから言ってるんだ。
 気にいらねぇヤツは、誰でもブン殴る。
 それに、超~~女好きで、手が早いからな。
 あんたみたいなお嬢さんなんて、あっという間に、ぱく、って食われちまうぜ?」

「食べられちゃうって……!
 ホラー映画の食人鬼みたいに、頭から、こう、ばりばりと……」

「……ちげぇよ。
 あんた、本当にな~~んも危機感無いんだな。
 裕也が出るまでもねぇ。
 俺が、あんたを食ってみせようか?」

「……え?」

 宗樹は、妖しく微笑《わら》うと、わたしを見つめて急に近づいて来た。

 それが、キスでもされそうに近くて、ドキドキする。

 わ、わたし、本当に食べられちゃうの?

 でも、なぜか怖くは無かった。

 顔、キレイだからかな?

 ……口元の傷が無ければ、もっとカッコいいのに、なんて。

 わたしも、宗樹から目がそらせなくて。

 すぐ上にある顔をじっと眺めてたら、最初に目をそらせたのは宗樹の方だった。

 わたしの瞳を覗き込んでた視線を外し、壁についてた手を離すと、改めてもう一度、壁を殴りつけた。

「~~くそ、ナニやってるんだ、この俺は!」

「宗樹?」

「う………るっせぇ! 来い!
 しかたねぇから、ガッコには連れて行ってやる!」

 宗樹は、わたしの手首を力任せに、ぐぃと引っ張った。

「きゃ~~!
 いきなり、そんなに乱暴にしたらわたし!」

 転んじゃう! と、思ったのに!

 宗樹は、そんなことさせなかった。

 まともに視線を合わしてないはずなのに、わたしの腕を絶妙に引っ張ったんだ。

 そして、今までいた人気の無い場所から、大勢の人が行き交う通路に出た。

 宗樹はキレイなステップで、人ごみをすいすいとかわす。

 すごいなぁ。

 なんて、感心しているうちに、さっき跳ね飛ばされた切符の自動販売機前まであっさり着くと、自分のカードで君去津までの切符を買って、わたしに押しつける。

「新入生は、今日学割定期券の書類が配られる。一応これで入っとけ。
 あんたの家は、金持ちだから、小銭の出入りなんてどうでも良さそうだけど、無駄にしていい金は無いからな」

「あっ、ありがとう! 今、切符代払う……!」

「こんな人ごみで、カバンなんて開けるな、邪魔だから!
 それはいいから、次はこっちだ」

 宗樹はそう言うと、まるで社交ダンスをするみたいに、わたしの肩を軽く抱きしめ歩きだす。