「だから、あんた。人ごみに流されてたのか。
 ……でも、切符って、ナニやってるんだよ。
 事前に、スィカとか電車に乗れるカードを買っておかなかったのか?
 それさえあれば、わざわざ切符買わなくても、自動改札通れるだろ?」

 そか。

 そういうカードを使っているから、みんな自動販売機に並ばずに、改札の方に流れる感じになってるのか。

 ……勉強になるなぁ。

 思わずしみじみ頷いてから、あれ? と首をかしげた。

「……えっと、カード?
 爺に……じゃなかった。宗一郎に電車の乗り方教えてもらった時は、確か。
 電車の路面図をみて、調べた運賃分の切符を自動販売機で買って。
 切符を駅員さんに、ぱちんと挟んでもらってから改札を通れ……って」

「……へ?」

 わたしの言葉に、宗樹は信じられないコトでも聞いたかのように、きょとん、とした顔になった。

 えっ、わたし、何か間違ってた?

 うーん、と。確かこれでいいはず、だけど。

「……で、君去津までの切符欲しかったんだけど、路面図に載ってなくて」

 両手の人差し指をつんつん突き合いながら「ちょっと困ったかなぁ」って言ったら宗樹の顔がぴきっとひきつった。

「改札通るのに、切符を駅員に挟んでもらえ、だって!?
 あんの、くそじじい!
 最後に電車に乗ったの、いつだよ!」

「えっと、あの……宗樹?」

 なんだか、とても怒っているみたい。

 叫んだ宗樹に声をかけたら彼は、わたしを睨んだ。

「君去津の駅名無いのも当たり前!
 私鉄の駅なんだから!
 JRの路面図に、書いてあるわきゃねぇだろ!」

「えっ! そうだったんだ……」

 驚いているわたしに、宗樹は獣みたいに喉をぐるぐる鳴らして唸り。

 今度は、答えを聞くのが心底イヤそうに質問した。

「……で。なんであんたは、裕也に声かけたんだ?
 あいつ、私服だったし、顔、殴られてヤバかったろう?
 怖く無かったのか?
 ……っていうか。
 知らない男と関わり合いになるな、ってのはガキの頃から教えられてなかったか?」

「……うん、でも。神無崎さんずっと座り込んでたみたいだし。
 立ち上がれないほど殴られてたなら、大変だなって」

 「莫っ……迦!
 殴られたってことは、そいつも誰かを殴ったかも知れないってことだろ!
 アイツの態度と目つき。
 殴られたら泣いて寝込むようなヤツに見えたか?
 少しは自分の身の危険を察知しろよ!」

「でも、ほら。
 困ってるんだったら、どんなひとでも、助けてあげないといけないかなぁ、って」

「……勘弁してくれ。胃に穴が開きそうだ」

 首を傾げるわたしに、宗樹はげっそりとした顔をした。