「女に手ぇあげた覚えねぇし。
 ……ナンパの真似事はとっくにやってみた。
 始める前に、玉砕したっぽいけど」

「ぷっ、は。あははは~~」

 ふてくされた神無崎さんの声に、宗樹はぷっと、吹きだして笑い。

 彼もまた、神無崎さんと同様、顔が痛い、と頬を押さえた。

 こ~の~ひ~と~た~ち~は~

 呆れるわたしと、ふてくされる神無崎さんを無視してひとしきり笑うと、宗樹は、突然ひょい、とわたしの手を取り引っ張った。

 わ……わわわっ、何するのよっ!

 本格的に転びかけたわたしを、軽く抱きとめ、宗樹が笑う。

「悪りぃな、裕也。こいつは、やれねぇ。
 お前のナンパの相手も、ケンカの相手もさせるわけには、いかないからな」

 気がつくと、宗樹はわたしの手を勝手に恋人つなぎに握ってる!?

 もちろん、わたしは宗樹と付き合ってるわけでは、もちろん無く。

 それどころか、何年か判らないぐらいぶりの再会で、気分は初対面の神無崎さんとそう、変わらない関係のはずなのに。

 ビックリして、固まっているわたしを、宗樹は当たり前のように自分の近くに引き寄せた。

 その様子を見て、神無崎さんが一瞬戸惑ったような顔を見せ……

 あーーごほん、と、わざとらしく咳払いをすると、じろっとわたしを睨み。

 宗樹に向かっては、なんだか妙に焦ったような声を出した。

「……ん、だよ。
 西園寺のハナシ聞いて、か~な~り、イヤそうに舌打ちしてたのは、フェイク?
 ただの痴話喧嘩かよ。
 なんだか、オレの知らない所で二人、ラブラブじゃん」

「ま~~な~~」

 宗樹は、そらっとぼけた口調で軽く笑った。

「そ~~言ったワケで、俺ガッコの近くの駅まで、お嬢さんを送ってゆくからさ。
 裕也は、後からゆっくり来いよ。
 待ち合わせは、いつものトコロな~~」

「ん、だよ。
 今日は、せっかくお前を待ってたのに別々かよ?」

 何だか、神無崎さん、スネてる?

 でも、ふくれっ面の彼に『人の恋路を邪魔するヤツは、馬に蹴られて死ぬんだとさ』なんて。

 宗樹がひらひら手を振ったら、ようやく、神無崎さんは『しかたねぇ、また後でな』なんて、頭を掻きながら、人ごみの中に消えていく。

 その、目立つ長身が完全に見えなくなったとたん、だった。

 宗樹が、変わったのは。