大人になってから、親友を見つけるのは難しいと日本人妻が言えば、アメリカン夫は反論した。
日本語はそこそこわかるが、日本人の妻とは考え方や習慣がやっぱり違う。
見知らぬ人とすぐに意気投合して、楽しく会話をするような国の人には、いつでもどこでも友達というものは見つけやすいものなのだろうか。
百歩譲って妻は考えてみたが、ネットで安易に知り合った人と色々と揉め事に巻き込まれた妻の経験上、納得できないものがあった。
そこで妻は、最近知り合った人でどんな仲のいい友達がいるか、夫に訊いてみた。
夫はすぐさま答える。
「ダブルデブ」
「はっ? ダブルでぶ?」
半信半疑に妻は夫に確かめる。
夫は自信たっぷりに頷いた。
ダブルでぶ──二重に太いということだろうか。
妻の頭では巨漢の人物が浮かんでいた。
アメリカ人は確かにでかい。
縦にも横にも。
体がふくよかだと性格も大らかになり、友達になりやすいのかもしれない。
妻はあれやこれやと考える。
ダブルでぶ。
言い方はなんかいただけないが、親しみを込めたニックネームだと考えたら、よほど親しい間柄になったと思えなくもない。
しかし『でぶ』はちょっと失礼な。
でも第二カ国語として覚えた日本語だと、アメリカンの耳には本来の意味として聞こえず、さほど悪い言葉に思えないのかもしれない。
でぶ、でぶ……
英語だとファット。
果たしてどれだけ太いのだろうか。
妻は思い切って訊いてみた。
「そのダブルでぶって、かなり大きいの?」
「まあ、大きいかな」
「相撲レスラーみたいな感じ?」
「相撲レスラー? そこまで大きくない」
「えっ、それじゃそんなに太ってないじゃない」
「そうだよ、彼らはでかいけど太ってないよ」
「彼ら?」
「そう、デブが二人」
「えっ、でぶが二人もってこと?」
妻の頭の中でもう一人デブが増えた。
「そっか二人のでぶなのね」
最初想像した相撲取りの大きさから、少し萎んだそれなりにちょっとふくよかな二人の人物を頭に浮かべて妻は呟いた。
その直後、夫は付け足した。
「そう、二人とも同じ名前だから」
「は? 同じ名前?」
「そう、ふたりともDaveだから」
妻の空耳だった。
Dave、でぶ。
妻の頭から二人のでぶが消えていった。
そして数年後、夫の側からも二人のデイブが消えてった。