毎日、毎日、色んな奴らがひっきりなしにここへやってくる。

 昔ここは何かの工場、または大きな会社の施設だったらしい。

 ちょっとした歴史のある建物で、それを改造して、今では科学博物館になっているが、さらにこの街で有名な観光スポットの一つになりやがった。

 見て感心し、手で触れて体験し、最新テクノロジーの仕掛けで大いに遊び、飽きられないように、定期的にテーマが設けられる特別催しだってある。

 だから休館日以外は、毎日人が訪れる。

 ここは地元の学校の遠足の場所として大いに重宝し、黄色のスクールバスが何台も駐車場に停まることだってある。

 休日は親子連れ、観光で訪ねてくる大人だってもちろん、それは世界各国からここへとやってくる。

 おいらはそういう奴らを壁際に立って控えめにいつも眺めている。

 別にぼーっと突っ立ているだけじゃない。

 これでも必要とされ、そこに居て、仕事を与えられている。

 しかも、この一つの体で、多様に仕事をこなすんだから、結構しんどいもんだ。

 それも、ひっきりなしに、お客がやってきて、おいらを必要とするんだから、なくてはならない存在だ。

 ここで働いている奴らだっておいらを利用する。

 おいらを見かけると、ほっとけないというのか、ついつい手がでちまんだろうな。


 夏の暑い日には冷たく、冬の寒い日には熱くだが、実際は季節に関係なくそれは極端に二つの温度をいつも調節している。

 様々なボタンが一杯ついて種類だって豊富だ。

 おいらはお金さえ貰ったら、素直に働くぜ。

 それまでおいらはちょっとしたショータイムをあんたに見せてやる。

 あんたはお金を入れて、好みのボタンを押すだけだ。

 後はあんたがそれをどう受け取るかが問題だ、特に今日みたいなおいらの調子が悪い時は……


「なんか飲もうか」

「色々あるね」

「値段もそんなに高くないね」


 おいらには何を言っているかわからないが、 三人の女たちがおいらの前で、話し合っている。

 見掛けからして、多分日本人だろう。

 これから何を飲むかの相談か。

 やめとけ、今日はおいらは働きたくない気分だ。


「コーヒー飲もうかな」

「クリーム、砂糖は好みで選べるね」

「私は、冷たい物がいいな」


 おいおい、鞄から財布を取り出そうとしているじゃないか。

 だからやめろって。


「あっ、コインあまりないや」

「大丈夫だよ、紙幣もいける」

「おつりちゃんと出るのかな」


 1ドル札を手に取りやがった。

 それを差し込む気か。

 やめろ、お金はいれるな。

 といったところで、おいらの声は届かず、信じ切ってる奴らにはおいらはしっかりと仕事をこなすと思っているのだろう。


 だったらその仕事を見せてやろうじゃないか。

 そうだ、おいらは自動販売機だ。

 客が欲しがる飲み物を提供するのがおいらの仕事。


 キューンと音を立てて、差し込まれた1ドル札を吸い込む。

 体のエネルギーが充満し、腹の底から湧きたつ力がみなぎって、グィーンと動き出す。

 その端っこでチャリンチャリンとコインを落とす

 先に釣りは返してやるぜ。


 グォーと体の中で液体が巡回し、所定の位置に集まった。

 さあ、ショータームの始まりだ。

 もう誰にも止められはしない、これがおいらの課せられた道。

 客が選んだ液体をおいらの体から出す。


 おいらはお腹の小さな扉を開き、それを堂々と見せてやる。

 さあ、見やがれ、おいらの腹の中を。

 ようし、出すぞ。

 ジョジョジョジョジョー


「あー」

「えっー」

「うそー」


 やっぱり驚いてるな。

 でも出てしまったものは仕方がない。

 さて、最後にこれもくらえ。

 ポン!


「……」

「……」  

「……」


 まあ、びっくりするわな。

 先に液体が出て、最後にカップがでてくるんだから。

 でもちょっとしたショータイムだっただろう。

 だって、奴らは腹を抱えて笑い転げてる。


「ちょっとひどい、アハハハ」

「何、これ、液体出し切ってから最後にカップが出てくるなんて、笑える」

「なんか受ける」


 だから、今日は調子が悪かったんだ。

 すまなかったな。

 それでも笑ってもらえるなんて光栄だ。

 普通は怒るところだ。

 スタッフに言えば、ちゃんと金は戻ってくるから安心しな。

 今度は調子のいい時にきてくれよ。

 また待ってるからな。


 そして奴らが去って暫くした後、おいらはout of order(故障中)と書かれた紙を貼られちまった。

てへ、ぺろっ。