「だからこそ、せめてここに来た者はみな、救いたいと思っている」


そう、優しい声音で紡がれた時。
雲の隙間から柔らかな細い光が落ちて来て、雨雲がゆっくりと散っていった。


まるでスローモーションのように流れていく雲とともに雨が弱まっていき、そのうち大きな音を立てていた雨が止まった。


「これ……雨天様がやったの?」

「ああ。少しの間なら、やませることができる。まぁ、またすぐに降らせることになるがな」


肩を竦めた雨天様が、「足元の水たまりを見てごらん」と笑った。
傘を下ろしてから言われるがまま視線を落とすと、そこには見たことがある場所が映っていた。


「なにこれ……」

「ひがし茶屋街の風景だ」

「どうなってるの?」

「これも、私の力のひとつなのだ」


驚いて地面に釘付けになる私に、雨天様は笑っているみたいだったけれど……。
それを確かめる余裕はなく、水たまりの中で行き交う人々の様子を見ながら目を見張った。


その中にいる人々は、古い街並みを笑顔で楽しみ、写真を撮ったり一服したりしていた。
それは、ひがし茶屋街で見る光景そのものでしかなかった。