「ああ、ひかり。傘はいらないよ」

「でも、外は雨が……」

「だから、私の傘に入りなさい」


雨天様は、玄関で自分の折り畳み傘を手にした私を制すると、立てかけてあった赤い和傘を持った。
珍しいものを間近で見せられた私は、ついそれに見入ってしまう。


「蛇の目傘だ。柄は木棒で、こうして藤が巻いてある」

「触ってみてもいい?」

「ああ、持ってみるか? 少し重いが」

「うん、持ちたい」


そっと渡された蛇の目傘を、どこか慎重な気持ちで受け取る。
ずっしりとした重みがあるけれど、鮮やかな色に目を奪われた。


蛇の目傘の赤い和紙には白い輪が施され、そこに沿うように梅の花が描かれている。
内側に張られた糸は〝飾り糸〟というらしく、和傘の美しさに感嘆のため息が漏れてしまった。


「そんなに気に入ったのなら、それはひかりにあげよう」

「え? ううん、いいよ!」

「遠慮することはない。傘などまた手に入る」

「ううん。そうじゃなくてね、私の傘はおばあちゃんと選んだものだから、それを使いたいんだ」

私の答えに、雨天様は「そうか」とだけ言った。