「なんでも、こいつのとこの先代がうちの遠いご先祖様と縁があったらしくてな。その縁で、今もこうして付き合いがあるんだ」

「猪俣家には代々、甘味をお持ちする代わりに、我々で手に入れにくい材料をご用意していただいているのです」

「神様が作った甘味なんて、なかなか洒落てるよなぁ。しかも、雨天様のお茶屋敷の甘味は抜群にうまい。縁を繋いでくれたうちのご先祖様には、感謝してるよ」


説明してくれる猪俣さんとコンくんを交互に見ていると、猪俣さんは「他人には食べさせてやれないのが残念だけどな」と眉を下げた。
意味がわからずにいると、コンくんが微笑んだ。


「雨天様の甘味は、本来は屋敷に訪れた者だけが口にできる特別なものなのです。先代と猪俣家の契約により、猪俣家は特別なのですが、〝猪俣家以外の者には食べさせない〟というのも契約のひとつなのです」

「じゃあ、お裾分けとかはできないってことなんだ」

「ええ。これはあくまで、猪俣家へのお礼であり、他の者のために作ったものではありませんから」

「まぁ、そういうことだな」


そこでこの話は終わってしまったけれど、雨天様の甘味を口にできる条件は厳しいみたい。
だとしたら、二度も食べることができた私は、自分が思っている以上に幸運だったのかもしれない、なんて考えていた――。