「ご注文の栗羊羹です」


コンくんの言葉とともに風呂敷が開かれ、中からは笹の葉のようなものに包まれた棒状のものが出て来た。


「おお、これこれ。これが食いたかったんだ」

「今日のものは自信作だ、とのご伝言です」

「お前んとこのご主人様は、いつも自信作だって言うだろう」


ふたりのやり取りに違和感を覚えたのは、猪俣さんがコンくんだけじゃなく、雨天様のことまで知っているような口ぶりだったから。
むしろ、さっきの〝成仏〟のくだりを含め、事情を知っているとしか思えない。


「あの、猪俣さんって何者なんですか?」

「なんだ、コン。説明してないのか」

「ええ、まぁ。ひかり様が再訪されたのは昨日だったもので。それに、ここに来るまでは他のことを話していましたし」

「なるほどな」


猪俣さんは苦笑すると、私を見て優しく笑った。


「俺は、元神主なんだ。といっても、無名の小さな神社で、代々身内でひっそり守っているだけなんだが……。で、なんの因果か、うちの一族は代々視えやすい方らしくてね」

「……視えやすい?」

「いわゆる、幽霊や神様の類だよ。まぁなんでも視えるわけじゃないし、視えても関われるとも限らない。だが、コンのことは俺が子どもの頃から知っているんだ」

「コンが百三十歳くらいの頃、猪俣様がお生まれになりました」


コンくんが補足すると、猪俣さんがフッと口元を緩めた。