バス停からどんどん路地に入って行き、十五分ほど歩いて着いたのは、古い日本家屋風の建物の前だった。
建物の前で丁寧に一礼をしたコンくんは、「ごめんくださいませ」と言ってから、古びた格子造りのドアを開けた。
「おや、コンじゃないか。いらっしゃい」
「こんにちは、猪俣様」
「今日はデートかい?」
「いえ、こちらの方はうちのお客様なのですが……」
「なんだ、成仏できなかった奴か」
「猪俣様、ひかり様は人間です。それに、何度も言っておりますが、成仏ではなく〝あるべき場所にお帰りになられる〟のです」
「冗談だよ、まったく。コンは、相変わらず冗談が通じないな」
真っ白の髪を撫でた男性は、七十歳を過ぎていそうだけれど、とても元気だし、笑い方も豪快だった。
ふたりのやり取りに呆気に取られそうになっていた私に、不意にシワ塗れの手が差し出された。
「猪俣だ。コンは、うちのお得意さんでね。ひかりちゃんって言ったかい? よろしく」
「あ、はい。桜庭ひかりです。よろしくお願いします」
その手を握って頭を下げると、「そんなに丁寧に挨拶してくれなくても構わないよ」と笑われてしまった。
程なくして、コンくんは猪俣さんに小豆と金箔を用意してもらい、それを受け取ったあとでずっと背負っていた風呂敷を下ろした。
建物の前で丁寧に一礼をしたコンくんは、「ごめんくださいませ」と言ってから、古びた格子造りのドアを開けた。
「おや、コンじゃないか。いらっしゃい」
「こんにちは、猪俣様」
「今日はデートかい?」
「いえ、こちらの方はうちのお客様なのですが……」
「なんだ、成仏できなかった奴か」
「猪俣様、ひかり様は人間です。それに、何度も言っておりますが、成仏ではなく〝あるべき場所にお帰りになられる〟のです」
「冗談だよ、まったく。コンは、相変わらず冗談が通じないな」
真っ白の髪を撫でた男性は、七十歳を過ぎていそうだけれど、とても元気だし、笑い方も豪快だった。
ふたりのやり取りに呆気に取られそうになっていた私に、不意にシワ塗れの手が差し出された。
「猪俣だ。コンは、うちのお得意さんでね。ひかりちゃんって言ったかい? よろしく」
「あ、はい。桜庭ひかりです。よろしくお願いします」
その手を握って頭を下げると、「そんなに丁寧に挨拶してくれなくても構わないよ」と笑われてしまった。
程なくして、コンくんは猪俣さんに小豆と金箔を用意してもらい、それを受け取ったあとでずっと背負っていた風呂敷を下ろした。