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「ん……」


いつの間にか眠っていたようで、居間の片隅で瞼を開いた私は、目尻に違和感を覚える。
半身を起こしながら目元に触れると、乾いた涙のザラザラとした感触が指の腹に伝わってきた。


洗面台で顔を洗い、冷蔵庫を開ける。


「あ、そっか……」


ライトに照らされたそこは、当たり前のように空っぽだった。
私が来る時はいつも、冷蔵庫がパンパンになるほどの料理が用意されていたことが、もう随分と昔のことのように思える。


私の好物ばかり並べてくれることが嬉しくて、お腹がはちきれそうになっても欲張って食べた。
そんな私を見て嬉しそうにするおばあちゃんにまた喜びを感じて、さらに無理をしてしまって……。
帰宅後はいつも必死にダイエットをしていたけれど、そんなことも幸せだったのだと気づく。


再び滲み始めた視界が、見慣れた居間の風景を歪めていく。
自ら望んで足を踏み入れる前からこうなることはわかっていたのに、それでもここに来なくてはいけないような気持ちになったのはどうしてだろう。


その答えを見つけられないまま、心細さを振り払うようにおばあちゃんの家を出て、大通りに向かった。
悲しくても心細くても、なにもない家に泊まるためには数日分の生活用品を調達しなければいけないから。