「神なんて、人が思うほど万能ではないものだ。だが、不便なことはないし、私はここでお客様をもてなすことを楽しんでいる」


雨天様は穏やかに微笑んでいて、その言葉が嘘じゃないことはわかった。


「庭には、季節折々の果実が実るし、美しい花も咲く。足りない物は二匹の子狐が仕入れてきてくれ、甘味を作るのは至福だ。よい暮らしだと思っておる」


神様にも、制約のようなものがあるのかもしれない。
もっと色々と訊いてみたかったけれど、ほんの一瞬だけ悲しそうにも見えた瞳を前に、詳しいことを尋ねるのは憚られた。


「話を戻そう」


私の思考を読めるはずの雨天様がなにも触れてこないということは、きっとそういうこと。
素直に頷いて見せると、「いい子だ」と瞳が丸められた。


「コンとギンは、見た目こそ子どもだが腕は信頼できる。なにかあれば、必ずひかり守ってくれるだろう。だがな……」


そこで小さなため息を落とした雨天様は、どこか申し訳なさそう微笑んだ。


「危険なことなんて、まず起こらないと思ってよい。ひかりに自覚を持たせるために魂の話をしたが、あれはここでお客様に触れてしまった時と、ここに長く居座った時だけだ」


思わず唇を尖らせたけれど、雨天様が「すまぬ」とあまりにも素直に口にしたから怒る気は失せてしまった。