仏壇の前に腰を下ろし、手を合わせる。
口うるさいことはなにも言わなかったおばあちゃんに唯一言われていたのは、『ご先祖様へのご挨拶はきちんとしなさい』という言葉だった。


『どうして?』

『今日も無事に過ごせるように見守ってください、ってお願いするの』

『そうすれば、元気に過ごせるの?』

『おばあちゃんは、そう思っているのよ』


子どもの頃、投げかけた疑問に答える笑顔は、いつだって真っ直ぐにおじいちゃんの写真を見ていた。
その横顔を綺麗だ、と感じたことは今でも鮮明に覚えている。


おじいちゃんは、私が幼い頃に病気で亡くなった。
それからも、おばあちゃんはずっとおじいちゃんのことを想っていたのかもしれない。


私にはおじいちゃんの記憶があまりなくて、思い出といえば縁側に座っている後ろ姿か、金魚鉢を眺めている横顔くらい。
あまり笑わない人で、いつも笑っているおばあちゃんとは正反対だった。


孫である私たちどころか、おばあちゃんとすら話しているところをあまり見なかったくらい寡黙だったけれど、おじいちゃんの話をするおばあちゃんは不思議なくらい幸せそうだった。
まるで、今でも恋をしているかのように。


そんなおばちゃんの笑顔を見ていると、私まで嬉しいような気持ちになって、瞳が緩んでいた。
今頃、ふたりでお茶でも飲んでいるのだろうか。