「人間の記憶を消すのは、あるべき場所にお帰りになられたあとで思い出して再びここを訪れないようにするため、でございます。魂や、時には神様までもがお客様になるこの屋敷に、無防備な人間がそう何度も訪れては魂が引きずられてしまうこともあるのです」

「えっと……つまり、魂が引きずられるのはダメってことなんだよね?」

「はい。まだ命あるお客様の魂が他のお客様やこの屋敷と密になった場合、人の魂はもとの場所に戻れなくなります」

「え、じゃあ……」

「ご想像されている通りだと思います」


一気に不安に侵され、心臓が嫌な音を立てる。
冷汗を掻いたような気がした時、コンくんが口を開いた。


「魂がもとの場所に戻れなくなれば、必然的に体は動きません。そして、戻る術を失くした魂は、本人の意思とは関係なくこの世を彷徨い続けることになるのです」

「今までにそういう人がいたことはあるの……?」

「ひかり様の前にいらっしゃったふたりのお客様は、天寿を全うされました。私が聞いている限りでは、私が来る前にも魂が彷徨ったお客様はいないようです」


答えを聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。
不安は色々あるけれど、前例がないのなら〝そうなる〟可能性はそんなに高くないはずだ、と思ったから。


ところが、コンくんもギンくんも神妙な顔つきで、少なくとも安堵感を抱かせてくれそうにはない。
つい雨天様を見ると、雨天様は息を小さく吐いた。