「確かに、人間のお客様もお越しになられることはございます。ひかり様の前に人間のお客様がいらっしゃったのは、八十年ほど前でした。その前は、百十年近く前のことです」

「え? そんなに?」

「雨天様は、昔はもう少し人間のお客様もいらっしゃったとおっしゃっていましたが、私とギンがおもてなしをさせていただいた人間のお客様は、ひかり様で三人目でございます」


ということは、つまりこの屋敷に人間が来ることはほとんどない。
むしろ、平均寿命を生きたとしても人生約九十年の人間目線から言えば、八十年ぶりとか百十年ぶりとか、〝ほとんど〟なんて言えるレベルですらないと思う。


「人が来るのはレアなんだね」

「れあ?」

「え? ああ、えっと……珍しい、みたいな意味かな」

「ああ、そうです。とても珍しいですよ」


首を傾げたコンくんに意味を伝えれば、コンくんは笑顔で肯定した。
コンくんは、続けて「とにかく」と前置きをし、私を真剣な瞳で見つめた。


「それほどまでに、人が足を踏み入れる確率は少ないのです。理由は、私の声は人に届くことがほとんどないというのはもちろん、人以外の者ばかりが出入りをするこの屋敷に人が足を踏み入れるというのは危ういからでございます」


危ういという言葉にたじろいだものの、あまり不安はなかった。
なぜなら、今はちっともそんな感じなんてしないから。