「ひかり様の心が癒え切っていなくても、本来なら我々のことも屋敷でのことも、自力で思い出すことはないはずでした。理由は我々にもわかりませんが、私は恐らく心の傷以外にもなにかあるのではないかと思っております」

「え? そうなの?」

「はい。ですが、こちらは憶測の域を出ませんので、今はお忘れください」

「あ、うん……」


私が雨天様たちのことを思い出せた理由は気になるけれど、コンくんたちがわからないことを私がわかるはずがない。
頷くしかなかった私は、ひとまず話題を変えた。


「さっきのお客様は、心の傷が癒えたの?」

「綺麗さっぱりとはいかなくても、癒えたからこそあるべき場所にお帰りになられたのです。その行先はわかりませんが、笑って行かれたのできっと大丈夫でしょう」

「そういうものなんだ」


コンくんの言葉は、妙に説得力があった。
あのお客様の最後の表情はとても穏やかだったし、主のもとに行けたらいいなと思う。


「つまり、ここにいらっしゃるお客様は、基本的に〝人ではない者〟なのです。神様や死者、さきほどのように神使ということもありますが、いずれも決して人とは違います」

「でも、人も来るんだよね。だって、確か……」


雨天様とコンくんの会話を思い出して訊けば、コンくんは「はい」と小さく頷いた。