「来世もあなたに幸福の縁がありますように」


優しい声音でそんな言葉が紡がれたのは、それからすぐのこと。
雨天様の声につられたように隣を見ると、意味深な笑顔を向けられていた。


「訊きたいことがたくさんあるようだな」

「そ、そりゃあ、だって……」


さっきまでお客様がいた場所と雨天様を交互に見ると、雨天様がクッと笑いを噛み殺すように喉を鳴らす。
からかわれているような気がしたけれど、雨天様は「あとで答えてやろう」とだけ言い、お客様が使っていた食器を持った。


「雨天様~! 子狐なんてひどいですよね! コンはもう二百歳を超えているんですよ!」


そんな雨天様の後を追うコンくんは、不満を漏らしている。
さっきの不服そうな顔つきの理由はわかったけれど、今はそんなことよりももっと知りたいことがたくさんある。


「だいたい、雨天様のことだって神様とは思っていませんでしたよ! 失礼なお客様でしたね!」

「仕方あるまい。あのお客様は、我々よりも遥かに長い年月を生きてこられたのだ。私を若輩者と言えるくらいには、社を守り続けていたのだろう。神使という立場であったとはいえ、私は敬意を払いたい」


唇を尖らせてプリプリと怒るコンくんを、雨天様は優しい眼差しで見ている。
今まで気づかなかったけれど、雨天様はコンくんたちのことをとても可愛がっているようだった――。