「小娘」

「は、はい」


突然呼ばれて驚いてしまった私に、お客様が優しい眼差しを向けていた。
無意識のうちに背筋を伸ばして、力強さを取り戻したような双眸を真っ直ぐ見つめ返す。


「そなたも、その心が早く癒えるとよいな」

「え?」


すると、気遣いの言葉を投げかけられ、どう返そうかと悩んだ。
そんな私を余所に、お客様がおもむろにその身を伏せたあとで小さな笑みをひとつ零し、そっと瞼を閉じた。


思わず雨天様を見て口を開こうとすると、唇にそっと人差し指が当てられた。
『黙っていなさい』と唇だけで伝えられ、戸惑いながらも首を縦に振る。


直後、お客様の身体が淡い光に包まれていき、その光は少しずつ強くなっていった。
目をまん丸にする私に反し、雨天様もコンくんもギンくんも様子を優しく見守っている。


お客様はまるで眠っているようで、私以外は誰も何事もないと言わんばかりだったけれど……。

「うそっ……! 消えた⁉」

ついにお客様の姿が光とともに目の前から消えてしまった時、驚嘆混じりの声を上げずにはいられなかった。
慌てて周囲を見渡したけれど、少なくとも部屋の中にはお客様の姿はなかった。