ふとお客様の瞳を見れば、キラキラと光るものが浮かんでいた。
その美しさから目が離せなくなりそうだったけれど、見てはいけないものを見たような気がして、咄嗟に視線を逸らした。


「今宵は雨でございます。こうも激しく降っていますと、なにもかもが濡れてしまいますね」


雨はちっとも激しくないし、ここは室内で濡れるはずがない。
ただ、雨天様の言葉に小さく頷いたお客様を見て、私も外を見遣った。


曇った空から落ちてくる雨粒は、美しい庭を濡らしていく。
枯れ始めている紫陽花が嬉しそうに水浴びをするかのように、淡い紫やブルーの花に無数の雫を受けていた。


「ああ、なんだか疲れたな」

「きっと、腹が膨れて安堵したのでしょう。もうひとりでお待ちになることはありません。どうか、心と体をゆっくりとお休めくださいませ」


ひとり言のような声に、雨天様が穏やかな面持ちを見せる。
お客様は、「そうさせてもらおう」と頷き、雨天様に向かってそっと柔らかな笑顔を返した。


「雨天と子狐よ、最高のもてなしであった。心から感謝しよう」


深く頭を下げたお客様に、雨天様たちはニコニコと笑っている。
コンくんはほんの少しだけ不服そうだったけれど、笑顔を崩さなかった。