「はい。だからこそ、お客様の心が救われる方を信じていただきたいと思うのです。私がその男性でしたら、あなたを心の拠り所にしていなければ、勝手に名前など付けませんから」


優しい声が、静かに落ちていく。
いつの間にか雨が降っていたことに気づいたのは、お客様が縁側の方に視線を遣ったから。


「……ああ、そうか」


ぽつりと零されたのは、柔和な声音。
雨音とともに、鼓膜をくすぐるようだった。


「だったら、ポチなんてふざけた名前を付けたことくらい、大目に見てやらねばならぬな」


〝ふざけた名前〟なんて言いながらも、どこか愛おしそうに微笑んでいる。
外を見つめたままの双眸は、怖いと感じた外見からは想像もできないほど、とても穏やかで優しいものだった。


「まぁ、もし主に会えたとしたらポチなんて呼ばれていたことを笑われるだろうが、それも悪くない」

「いいえ。あなたの主はきっと、あなたをお褒めになるでしょう。最後までよく社を守ってくれた、と」

「お前に主のなにがわかる?」

「あなたの主のことは存じ上げておりませんが、私も神と呼ばれる者の端くれです。自身に仕える者への想いは、分かち合えるかと」

「若造のくせに生意気な」


視線を雨天様に戻したお客様は、雨天様の答えを聞いて目を見張ったあと、フッと笑みを零した。