薄暗い廊下は、二ヶ所だけ大きな音が鳴る。
ギシギシと軋む古びた音を、幼い頃は少しだけ怖く感じた。
小学生になると、兄や姉、いとこたちとわざと踏み合いっこをして、よく両親や叔父たちに叱られた。
そんな時でも、おばあちゃんはいつも笑っていた。
皺を刻んだ笑顔で『元気でいいわね』と口癖のように言い、私たちを見守るように見つめていた。
みんながそれぞれに成長していくにつれて、おもしろ半分で廊下の床板を踏んで音を鳴らすことはなくなっていったけれど……。
ここに来た時には、なんとなくなにかを確かめるように一度だけ踏むことが癖になっていた。
ギシッ、と大人ひとり分には少し控えめな音が響く。
『そんな音が鳴っても現役なの』と、おばあちゃんが笑う。
訪問時のルーティーンは、もう叶わない。
ギシギシミシミシとわざと大きな音を立ててみても、優しい笑顔も楽しげな声も返ってこない。
ああ、そうか……。
ここにはもう、私を迎えてくれる人はいないんだ……。
わかっていたはずの現実が荒波のように押し寄せてきて、途端に熱いものがせり上がってくる。
鼻の奥がツンと痛んで、喉に感じた熱に息が詰まりそうになった。
滲む視界を手の甲で拭い、キャリーバッグとトートバッグを持って廊下を進む。
台所も居間も水を打ったように静かで、電気を点けても障子を開けても、どんよりと濁った曇り空のせいで部屋は薄暗いままだった。
ギシギシと軋む古びた音を、幼い頃は少しだけ怖く感じた。
小学生になると、兄や姉、いとこたちとわざと踏み合いっこをして、よく両親や叔父たちに叱られた。
そんな時でも、おばあちゃんはいつも笑っていた。
皺を刻んだ笑顔で『元気でいいわね』と口癖のように言い、私たちを見守るように見つめていた。
みんながそれぞれに成長していくにつれて、おもしろ半分で廊下の床板を踏んで音を鳴らすことはなくなっていったけれど……。
ここに来た時には、なんとなくなにかを確かめるように一度だけ踏むことが癖になっていた。
ギシッ、と大人ひとり分には少し控えめな音が響く。
『そんな音が鳴っても現役なの』と、おばあちゃんが笑う。
訪問時のルーティーンは、もう叶わない。
ギシギシミシミシとわざと大きな音を立ててみても、優しい笑顔も楽しげな声も返ってこない。
ああ、そうか……。
ここにはもう、私を迎えてくれる人はいないんだ……。
わかっていたはずの現実が荒波のように押し寄せてきて、途端に熱いものがせり上がってくる。
鼻の奥がツンと痛んで、喉に感じた熱に息が詰まりそうになった。
滲む視界を手の甲で拭い、キャリーバッグとトートバッグを持って廊下を進む。
台所も居間も水を打ったように静かで、電気を点けても障子を開けても、どんよりと濁った曇り空のせいで部屋は薄暗いままだった。