「お客様、もしよろしければ、若輩者の話を聞いていただけますでしょうか?」

「……なんだ」


雨天様が笑顔で切り出すと、お客様はひと呼吸置いたあとで雨天様を見た。
私も、お客様と同じように視線を隣に移す。


「その男性はきっと、願いを叶えてほしかったのではなく、お客様が守られていたお社が心の拠り所だったのでしょう。だから、最後の最後まで足繁く通い、あなたの分までどら焼きをご用意していたのではないでしょうか」

「ふん、なんの根拠もなかろう」

「ええ、おっしゃる通りです」


顔をしかめてため息をついたお客様に、雨天様は素直に頷いて見せた。


「ですが、彼は誰かと思い出話を共有したかったのかもしれませんよ。だから、願いは心の中で唱えていたのに、必ずひとつしていったという思い出話は声に出していたのではないでしょうか」


根拠がないなんて言ってしまえば、お客様を怒らせてしまわないだろうか。
そんな不安を抱いた私を余所に、お客様は目を小さく見開いた。


「なるほど、そういう見方もあるのか。だが、所詮は気休めであろう。本当のところは、あやつにしかわからぬ」


静かな口調が悲しみをよりいっそう色濃くするような気がしたけれど、雨天様は変わらずに微笑んでいた。