「構わぬ、雨天よ」


程なくして、雨天様に笑いかけたお客様は、私を見つめた。
それはとても優しい眼差しで、人間に対する冷たい言動とは反している。


「小娘、私はもう力尽きてしまったのだ。魂を社に留めることができぬほどに、力が弱まり過ぎてしまった。といっても、主がいない狛犬が、何十年も力を保っていられたことが奇跡にも近いのだがな……」

「じゃあ、お社は……?」

「……朽ちた。私にはもともと、なんの力もない。その狛犬の魂すら失った社は、朽ちるしかないのだ」

「そんな……」

「いや、これでよいのだ」


目を見開いた私に、お客様は悲しみが混じった笑みできっぱりと言い切った。


「主がいなくなってからあの男がやって来るまでの月日は、まるで永遠のように思えた。ひとりあそこで来ない者を待ち続けるには、もう年老いた私には寂し過ぎる……。せめて、このまま主のもとへ行けたらよいのだが、あの男を少しも救ってやれなかった私にはその資格もなかろう……」


寂しい物言いに、今にも泣き出してしまいそうに思えた声。
微かに声音が震えていたのは、涙をこらえているからなのかもしれない。


それでも、お客様は肩の荷が下りたと言いたげにも見えて、どこかで安堵感すら滲んでいるような気がした。
もちろん、気のせいかもしれないけれど。